虚構の愛幼い頃父親を亡くした。
外に出たはずの父がなかなか帰ってこないものだから扉を開けて様子を見に行ったら父が砕け散って血溜まりの中に散らばっているのが見えた。子供ながらにこの人型すら成していない石の欠片達が父親だと何となく分かった。
全ての欠片を回収する事は子供の手にはまだ難しく、魔法も覚束なかった私はことさら大きかった欠片の1つを手に取りそれ以外はわんわん泣きながら土に埋めた。血という粘性の液体が放つ嗅ぎなれない匂いと父の気配が入り混じる違和感の中、丁寧に丁寧に土を被せた。
父親は出来た人だった。
西の国で魔法使いであることを隠して生きて、母と結婚をして、順風満帆な人生だったと思う。そんな幸福な生活の中、不幸なことに魔女の私が誕生した。
私が魔女である事は産まれてしばらくもしないうちに母にバレて、母は私を遠ざけるようになった。
そんな状態に心を痛めた父は自分も魔法使いであることを母に明かして説明し、私を連れて家を出ていった。母の理解を得られるまでは別居することにしたらしかった。
新しい住まいは西の国の中でも発展が遅れていて、所詮田舎だった。
今まで慣れ親しんだ家から離れて不安がる私を文句も言わず父は支えた。そうして自給自足をしながら時々魔法を教えて貰いつつ、小さな幸せを形作っていったのだ。
それすらも呆気なく砕け散ったけれど。
父と暮らしていた家は出て行った。本当は母に会いにいくなり、出ていくなら出ていくで身辺の整理をした方が良かったのかもしれなかったが、当時の私には父親の空気を感じるあの空間にいることが耐えられなかった。
ふらふらと父親のマナ石を握りながら出ていき、そして貧民街に迷い込んでそこで暮らし始めた。幸いにも父より魔力が強い事もあって身体が丈夫だった私はちょっとやそっとじゃ体がダメになることも無く、そのまま馴染んで行ったのだ。
「ミラさ〜…いつもその宝石みたいなの持ってるよね」
「それ本当に宝石?なら売っちゃえば?」
「…売らない」
「何?誰かの形見とかって奴?」
「かたみ?」
貧民街で出来た仲間達から聞いた話は私にとって知らない話ばかりだった。
亡くなった人が身につけていたものを「形見」といって大切にする風習があるらしい。何でも大切だったその人の事を身近に感じられるように持っていたりするそうだ。
その話を聞いて私が今までこの欠片を捨てることも出来ず持っていた感情の正体が「寂しい」からだと気づいた。私は父親がいなくなって寂しかったのだ。
私は父親が大好きだった。
だから幾重の夜もこのマナ石と共にいた。
父が一緒にいてくれるような気がして、何も無くなった自分にも愛されていた記憶があるなら、安心して頑張れる気がしたから。
だからこそ、形見という風習にあやかってこのマナ石を加工し、身に付けられる装飾品にしたかった。
亡くなった人の装飾品などを形見として身につけるなら、宝石のような光り輝くこのマナ石も加工して装飾品にして持ち歩きたかった。
だがそこで大きな問題があった。私は貧民街の住民であり、宝石を加工してくれるような店は皆富裕層の多い豊かの街にあるということだった。私は街を歩くだけでも浮いてしまうだろう。