貴方から、貴方へ(デクボスver.)貴方から、貴方へ(デクボスver.)
デクランボス、その人は俺達にとって尊敬して止まない吸血鬼だ。
それは元々俺達が人間でボスに助けられたことがあるから、と言う何とも吊り橋効果的なことが理由なのだが、その話はまた後日にしよう。
「デクボスー、今日の書類此処に置いておきますよー!」
「あぁ分かった!この花に水をやったら行く!」
そんな尊敬して止まないボスだが、少し困る所も、勿論ある。
それは······、
「見ろお前達!ウツボカズラが餌を取り込んだぞ!」
「マジっすかボス!!?へぇ······こんなして食虫植物って餌飲み込むんすね!」
俺初めて見ました!とデクラン様······基デクボスの眷属の一人が目を輝かせてボスと同じように、ボスが育てている花······食虫植物を覗き込んでいる。
困った所とはそう、俺達のボスは狩り以外では酷く子供のような性格をしているのだ。
俺と同じ眷属達と人間の子供がするような鬼ごっこや隠れ鬼と言う、東の国に伝わっている遊びをやりたがる、全力で。
勿論、ボスは始祖様だから吸血鬼としての力も体力も、俺達眷属以上にある。
それはもう無尽蔵に。
ボスはそう言う“ 楽しいこと ”が大好きなのだ。
「ボス、そろそろ本気で仕事しないとタクミ様に叱られますよ!?」
「HAHA!!残念だが、もう既に昨日叱られた!」
「だからって今日もサボって遊ぶつもりですか!?お前等もボスに付き合って遊ぶな!!」
仕事しろ!!と俺が怒鳴れば、漸く仕事に取り掛かる仲間達。
そんな様子を見たデクボスは、お前はちょっと厳し過ぎるぞと執務室の机に戻ってぶー垂れた。
ちゃっかり食虫植物を机に置くことも忘れずに。
「さて、それじゃあ仕事をしようか」
「ボス、後はボスにしか見れない書類だけです」
どん!と俺が置いた書類の束に明らかに嫌そうな顔をしたボスだが、此処で甘やかせばそれこそデクボスは仲間達と遊びに行って帰って来ない。
その俺の意思が伝わったのか伝わっていないのか、ボスは渋々と言った様子で書類に目を通して行く。
「(今日はちゃんとやってくれるみたいだな)」
俺がこう言ってもボスは隙を見付けては遊びに興じてしまうけど、どうやら今日は真面目に取り組んでくれるらしい。
「······?あれ?ボス、何ですそれ?」
漸く真面目に仕事をしてくれるようになったボスだが、ふと見慣れない手紙に首を傾げる。
ボスもこんな手紙は初めて見たのか、シンプルな白いデザインの手紙を裏返したりして、誰が送って来たのかを確認する。
「う〜ん?良くは知らんが、書類の束に挟まっていた。宛名は············無いな!」
「何でそんな宛名の無い手紙に嬉しそうなんですか······害は無さそうですけど気味悪いんで処分しときますね?」
俺がそう言ってボスから手紙を取ろうとしたら、デクボスは「まぁ待て」と言って中身を開封した。
そして、軽く目を見開き······次ににっこりとそれはもう満面の笑顔を浮かべ、机から身を乗り出して俺に手紙を見せ付けて来る。
俺の顔に手紙を押し付けて。
「見ろ!『大好きです!!』って俺の名前が書かれてある!」
「そこまで近付けたら見えませんって。ってあぁ成程、ただのファンレターでしたか」
「しかし俺が好きだとは······HAHA!!物好きも居たもんだな!」
嬉しそうに、心底楽しそうに笑うボスに俺もまた嬉しくなる。
何だかんだ俺もボスが好きなんだ、仲間達と同じように。
だからこそ、俺も笑って口を開く。
「ボス、仕事して下さい」
と。