ダンデライオン(サイバー三号)ダンデライオン(サイバー三号)
私の名前は、サイバー三号です。
本日は、敬愛する始祖様達の任務を遂行し、速やかに、迅速に、屋敷へ戻る所です。
一号や四号は、他の任務の為、この場には居ません。
『任務完了、速やかに帰還致します』
仲間達に信号を送り、返事を受けて私は屋敷へと戻る為、歩き出しました。
そんな中、私の耳に、とある一つの声が聞こえて来ました。
「きったねぇガキだな近寄んな!!」
「っ!!」
道行く人間達は、目の前で突き飛ばされた人間の子供を、私達が良く人間達から受ける目線······始祖様はそれを【嫌悪感】だと言いました。
その嫌悪感を人間の子供に向け、去って行きます。
人間の子供を突き飛ばした人間は、身体を震わせる人間の子供に、拳を振り上げました。
「親も居ねぇような、てめぇみてぇなガキは死んでも誰も困らねぇんだよ!!」
「っーー······!!」
このままでは、始祖様への報告が遅れてしまいます。
この人間は、私が帰る道を塞いでしまっているので、このままでは戻れません。
そう言えば始祖様は、こんな時は実力を少し出しても問題無い、と仰っていました。
『任務遂行の為、防衛モードを発動します』
「なっ!!?がはっ!!!!」
『対象“Human(人間)”を認識、攻撃に対し応戦を開始します』
振り上げられた拳を受け止め、片手で首筋を打つ。
本当は爪を使えば早いですが、始祖様達は余程のことが無い限り、私達に人間達を殺させません。
一撃で気絶させた私は、この人間を放置し、屋敷へ再び戻ろうとしました。
『············』
「············」
くん、と私のマントを引っ張る、小さな手。
下を見れば、身体を震わせながら人間の子供が私を見上げていました。
『私に、用事ですか?』
「?」
『用事が無ければ、離して下さい』
「······?」
私がメモを書いて見せても、人間の子供は首を傾げるばかりです。
人間の子供は、私を見れば大抵泣き叫んで何処かへ行くのに、この子供は行きません。
それが不思議で、理解不能です。
『貴方は私が、恐ろしく無いのですか?』
「?」
やはり、メモでは通じないようです。
となると導き出せる回答は、この人間の子供は文字が読めないと言うことと、先程からずっと話さないことから、私達と同じく話せない、と言うこと。
サイズの合っていないボロボロの服に、伸び放題の髪。
裸足の足は、傷だらけ。
先程人間が言った「親が居ない」と言う言葉から、この人間の子供には親が居ない。
『“ 親 ”は生物に必要だと聞きました。貴方はその親が居ないのですか?』
「······」
私が、道行く人間の親らしき生物に指を差すと、人間の子供は暫く黙った後、こくりと小さく頷きました。
そうですか、と私が再び歩き出せば、人間の子供は私のマントを掴みながら、後を付いて来ます。
『人間の子供を、保護する場所に心当たりがあります』
【孤児院】とインプットした頭に、その場所までのルートが浮かび上がりました。
此処からだと、屋敷までも然程時間は掛かりません。
しかし、この人間の子供を始祖様達の屋敷に連れて行くことは、出来ません。
なので、私は仲間達に信号を送り、帰還が遅れる旨を伝えました。
そして、私は人間の子供を自分の爪で傷付け無いよう、その場でしゃがみこみました。
『貴方の足は、傷だらけです。その足では私の帰還が遅れてしまいます』
「······!」
ですから乗って下さい、と背中を指差せば、人間の子供は理解したのか、私の背中によじ登り、キュッと私の首に小さな手を回します。
人間の子供を背負いそのまま歩く私と、足をプラプラさせて、背負われる子供は嬉しそうに笑う。
“ 嬉しい ”と言う感情は、始祖様に最近教えて頂いた。
人間達は“ 嬉しい ”と“ 笑う ”のだそうだ。
暫くそのまま歩いていると、見えて来た建物。
それが【孤児院】だと把握した私は、子供を背中から下ろして建物を指差します。
『その先に、貴方を保護する場所があります』
「······」
人間の子供は、私の言葉が理解出来たのか、小さく頷いて建物に向けて駆け出しました。
そして、少し先で何かを見付けたのか、しゃがみこんで何かを手に持ちます。
そのまま再び私の元に駆け寄り、ソレを差し出しました。
「!」
『私に、ですか?』
「······!」
『そうですか、有難う御座います』
こくり、と大きく頷いた人間の子供は、私がソレを受け取ったことを確認した後、今度こそ孤児院に駆け出して行きました。
何度も何度も振り返り、私に大きく手を振りながら。
そうして私は、人間の子供から貰ったソレを見て、ふと思います。
『ダンデライオン(たんぽぽ)』
黄色い小さなその花は、何処か人間の子供に似ている花だと、思うのです。