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    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    性癖パネルトラップ6/死体を山に埋めに行く隼旬

    死体を山に埋めに行く隼旬 真夜中に電話がかかってきたから、なんて非常識なんだ、と思った。いつもならぐっすりと眠っている時間だ。たまたま暑くて寝苦しく、眠りが浅かったから起きてしまったというものの。半ば寝ぼけた頭で、僕はスマホの表示を見る。
    「もしもし……、ハヤト?」
    「もしもしジュン? どうしよう、俺、人殺しちゃった」
    「……え?」
     寝ぼけているのだと思った。そうであれと思った。再度聞こうと思ったのに、なぜかそれはためらわれた。僕はスマホを握る手を右手から左手に変えて、「今どこですか」と聞いた。
    「前にハイジョのみんなでピクニック行ったの覚えてる? なんて山か……」
    「行きます」
     そこなら、この家から歩いて十五分やそこらだ。こんな時間、僕以外で示し合わせてどっきりをしかけるようなこともしないだろう。ハヤトの声が震えている。僕は急いで着替えて、家の誰も目を覚まさないことを祈りながら玄関を静かに開けた。
     ハヤトの言う山を目指す。山なんてもちろんこの高級住宅街にはないのだけれど、なんというか、山なのだ。住宅街にぽっかりと丘のような土地があり、緑が萌えている場所。誰の私有地かも知らない。街はこんこんと眠っており、人の気配も車の気配もない。不気味なほど静かだった。
    「ハヤト」
    「ごめんね。ジュン、ごめん」
    「……どうするんですか」
    ハヤトの横には、青いビニールシートが人の形に転がっていた。まさか一人で運んできたのか? こんなところまで? 聞きたいことは山ほどあるのに、錆の匂いで言葉が出ない。
    「ごめん、なにも、聞かないで……」
    「……聞かないけど」
     ハヤトは泣いていた。鼻が真っ赤になっており、目の下も何度も擦ったのだろう。僕はハヤトの両手を包み込む。血なのか泥なのかわからない、真っ黒な塊が付いていた。
     自首しよう。本来なら真っ先に出る言葉が、何故だか出なかった。彼を守らなければ、という思いで溢れていた。ああ、目の前にあるのは偶然にも、山じゃないか。そして今は偶然にも、真夜中じゃないか。
    「埋めましょう」
    「……うん」
     最初からそのつもりだったのだろう。ハヤトはスコップを持っていた。先の方が黒く染まっている。これが凶器だったのだろうか。
     わからない。なぜハヤトがこんなことをしたのか。なぜこんなところにいるのか。わからないけれど、わからなくていい。
     ある程度奥まったところまで塊を運び、汗だくで息を切らす。この血の匂いは、きっと今後も僕の身体からこびりついて離れないのだと思う。スコップで深く、深く穴を掘る。スコップを使うのを交代するたび、お互いの手汗が交わった。
     ハヤトはずっと泣いていた。釣られて僕も泣いた。涙と汗がぐちゃぐちゃになって、腐臭に鼻水も止まらない。だけど僕らは、手を動かし続けた。朝日が昇るまでに全てを終わらせたかった。
    「ねえ、ジュン。なんで来てくれたの?」
     えずきながら穴を掘り進めていくうち、ふと、ハヤトが口を開いた。震える声でぽつりと、校庭の隅っこで独り言つように。
    「……そんなの、ハヤトが呼ぶからでしょう」
    「ごめんね」
    「あやまる暇があるなら、掘って」
     肩が引き割かれそうなほど痛かった。全身がどろどろで、このままここで朝陽に焼かれたいとすら思った。僕らは死体をごろりと穴の中に放り込んだ。どこの、誰だかわからないけれど。それよりも本当に、人だったのかも、僕は知らないけれど。
     ビニールシートは空虚に転がり、静かだった。僕らはその上に土を被せていく。僕たちの汗も、涙も、胃液も、このままここに葬り去られますように。
     どうして僕らはこんなことをしているんだろう。どうしてこの人生を選んだのだろう。考えてもわからない。この澱も、ここに埋めていく。
     ねえ、ハヤト。僕らがきみの側にいるのって、きみの笑顔を見たいからなんですよ。そんな泣きはらして、どうするんだよ。僕は乱暴に袖でハヤトの顔をこすった。ハヤトは何度も頷きながら、穴を塞いでいく。
    「……出来た」
    「逃げましょう」
     誰の私有地なのかもわからない。こんな時間にスコップを持って走っているのも、警察に見つかったら一発アウトだ。だけど僕たちは走るのをやめない。ひとまずは僕の家へ。物置にスコップを隠さなければならない。
    「ねえ、ジュン」
    「なんですか」
    「もしさ、俺が死んだらさ。さっきみたいに、ジュンが俺のこと埋めてくれない?」
     ハヤトは混乱している。気が動転している。正気なんて保てるわけがない。それでも、その思いに応えたいと思った。ばか、死ぬなんて言うなよ、と言うことも簡単だったけれど、今の彼がほしいのは、その言葉ではない。朝陽が背中に迫りくる。
    「もちろん」
    「……よかったあ」
     ハヤトはまた泣きだした。泣くのはあとにして、今はとにかく走って欲しい。僕は右手を差し出した。真っ黒でどろどろだ。ハヤトは左手を重ねる。彼の手もまた、真っ黒でどろどろだった。
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