早朝水族館 くしゃみをひとつすると、雨彦さんが「寒いか?」と尋ねた。そりゃあ朝の五時なんて、まだこの季節は肌寒いに決まっている。もう少し厚手の服を着て来ればよかった。
「風邪引かないでくれよ」
「お気遣いどうもー」
こんな時間のドライブは、酷くさみしい。歩道も車道も広々としていて、電柱が所在なさげだ。空が少し灰がかっている。仄明るい街並みはまだ寝息をたてていた。
「雨彦さん、眠くないのー?」
「ああ、しっかり目が冴えてるな。昨夜はよく眠れたようだ」
「それはなによりー。僕はまだ眠いなー」
「寝てていいぜ。着いたら起こすから」
ぐんぐんと進む車の心地に、つい頭がうとうとしてくる。身体に響く静かな振動は、ベッドの中とは違う安心感があった。雨彦さんは運転が上手い方だと思う。気持ち悪い揺れを感じたことはない。
1706