君とまた、
至極平穏なホームで、とある2人がじりじり一定の距離を保ちつつ睨み合っていた。
『今日こそ逃さないよ!』
『くっ!』
長い髪の後ろをまとめて一つの三つ編みに束ねリボンで結び、青いケープを羽織った女性型星の子のアシュアと、星の子の間では人気の峡谷のツンツン頭の大精霊の髪をし、白いケープが羽織っている男性型のキジだ。
2人が何をしているのかといえば、約数カ月前の情事の後、キジはアシュアを避け続けていた。アシュアはどちらかと言えば、また少しでも話したいと思って飛んで行ってみるのだが、彼はアシュアを見ると一目散にエリアの門を潜ったり、巧みな飛行で逃げるのだ。
今日も今日とてアシュアはキジのもとへ来たものの、フレンドと楽しげに雑談していた彼はアシュアを見て固まって、数秒後には逃げようとしたところを、アシュアが行動を読み先に回り、彼が逃げないようにと立ち塞がっているのだ。
『キジさん話くらい聞いてください!』
と、アシュアは久しぶりに怒り心頭だ。自分が原因だからキジの行動もわかる。気まずいのは自分も同じだから。
でも謝るチャンスくらいくれたっていいじゃないかとアシュアは思った。この数ヶ月イタチごっこだ。
肝心のキジは、眉間に皺を寄せ困った表情だ。アシュアの顔を見ようとしては目線を逸らす。
あんなことがある前は気さくに話できてたのに、アシュアは悲しくなった。あの頃に戻れたらと思うがそれも叶わない。
一瞬、アシュアの気迫が下がったのを見逃さなかったキジのはするりとアシュアの横をすり抜けて、草原の門へ駆けて行った。
『あ、まて!』
『待ちません!』
叫び、アシュアも草原へと足を向け飛び込み、すごい速さで飛んで行くキジの後ろ姿に、アシュアも負けじと飛び立つのだった。
『んもぅ!今日こそは話を聞いてもらうんだからっ!』
キジはキジで今日は一段と諦めの悪いアシュアに驚いていた。
『さすがにあの時から逃げ回るとこうなるか。』
どうしたものかと考えたキジはとある場所に軌道を変更した。雲を突き抜け、キジの姿を見失わないよう追いかけるアシュアは必死でキジのスピードに喰らいたく。しばらく追いかけっこを続けて、マンタや蝶の光でケープの光を回復しつつ飛ぶキジは、不意にカーブを描くように曲がると大きな雲のトンネルをくぐっていく。そこは、楽園の島へと続く道だ。
『くっ、あそこは広いから見失いやすい・・・。あの人って、ほんっと頭の回転はやいなぁ』
それでも!とアシュアはケープの光を回復してくれる光のマンタの癒しの波紋をすり抜け、雲のトンネルに突っ込んで行った。
開けると、キジはもう楽園の中心に向かうために飛び進んでいた。なんでそんなに飛ぶの早いのよ!と悪態をつきつつも、キジの後ろを追った。もう少しで途中の浮島に着く、というところでガクンとアシュアの体が傾いた。ゆっくりと降下し、重量に逆らうことのなく徐々に加速していく。
ケープの光切れだ。
自分たち星の子はケープに宿る光の子の力と、自分たちに埋め込まれている光石を共鳴させることで飛んでいる。ただ無限ではなく、徐々にその力は無くなっていく。その光を復活させる手段といえば、光の蝶、ロウソクの光、癒しの波紋の鳴き声を出す光マンタ、星の子同士の光石の共鳴などで回復が出来るのだが、アシュアはキジを追いかけるのに夢中でそれを怠っていた。
『しまっ・・・!落ちる!』
この高さから落ちたらどうなるのだろう。下一面は海だ。
『う、わぁあああーーー!!』
思わず声を上げ目を瞑る。
『え!嘘だろ・・・!?』
そのアシュアの叫びに振り返るキジは、いくらか距離のある所からアシュアが真っ逆さまに落ちていくのを見た。
考えるよりも先に体が動く。ケープで限界まで羽ばたき、アシュアのもとへと向かう。
『ーーっ!アシュア!!』
と名を呼び、海にたたきつけられる寸前で、彼女を抱きとめる。ギリギリの急停止の風圧に海は大きく水の波紋を描き飛沫が立つ。
ぜぇぜぇと息を切らし、ほっと息を吐いて、アシュアの無事を確認するため見下ろす。アシュアも海に叩きつけられるかと思ったら何かに抱き抱えられたことに驚き顔をそろりと見上げた。
至近距離で目と目が交差すると、2人の心臓はどきりと跳ねた。
『・・・キジ、さん』
『・・・・』
キジは無言でゆっくり上昇し、浮島まで飛ぶとアシュアをゆっくり下ろした。
そして、深くため息をついて、キッとアシュアを睨む。怒っている。
『あのまま!俺が間に合わずに海に叩きつけられたらどうするつもりだったんですか!!』
『・・・ぅっ』
『大怪我どころじゃない。みんなにどう詫びたらいいんですか・・・』
くしゃりと表情が歪み、キジは今にも泣き出しそうな様子でアシュアを見ている。心配かけてしまった。自分がしつこく追い回した結果なのに。
『ごめん、なさい』
『・・・はー、とにかく、無事でよかった』
キジはアシュアの腕をそっと引き寄せ、胸の中に収める。ぎゅうっと抱きしめられ息苦しさで、アシュアは息を漏らした。
『俺も逃げてすみません』
『んーん、僕もごめんね』
アシュアもゆるりとキジの背中に手を回して抱きしめる。
『正直、どうしたらいいか、わからなかったんです。あのままいつものように普通に接するのも、どう接したらよかったのか、考えてるうちにこうなってました。避けるつもりはなかったんです。』
『僕もキジさんの逃げ具合に、焦ってしまったなと思ってたけど、日が過ぎていくとこのままキミと話しも、コミュニケーションで遊ぶ事もできなくなるのかなって、考えるとさみしくて・・・。僕の悪い癖だ。』
すりすりと顔を擦り付けアシュアはキジを抱きしめる力を強くした。
『形だけ謝るのもどうかなとは思ったけど、ちゃんと謝っておきたかったんだ。ーーーごめんなさい』
『いいえ、・・・もう大丈夫です。もう逃げません』
『また、お話ししに来ていい?』
『もちろん』
『遊んでくれる?』
『貴女がそうしたいのなら』
ふいに顔を上げたアシュア、それを見るキジ。しばらく互いに見つめ合うとへらりと笑った。
そうして、周りも心配するほどよそよそしかった2人だが、きっかけはともあれ仲直りできたのだった。
ホームでは今日も、仲良くみんなで談笑しあう星の子達で賑やかだ。