拒めるはずもなく【アシュキジ】
今日のあの人はおかしい
なにがって、まずはオーラからして。その人に今、自分は追い詰められてるなんて変な話だ。
『あの、落ち着いてアシュアさん?』
『これでも落ち着いているよ』
嘘だ。口元はにこりとしているが、目が笑ってない。普段穏やかな雰囲気の人なのに恐怖を感じた。
『逃げないでよキジさん』
『いやいやいやいや』
『僕の言う通りにじっとしてればいいと思うよ?痛いことするわけじゃないから』
『なるほど?』
と言いつつも体は後ろへと下がっていく。それをアシュアがじりじりと追う形である。
こつん
嫌な感触が足へと伝わる。ちらりと横目で見れば壁だ。
『アシュアさん、とりあえず歩みを止めませんか?』
『キジさんが止まっててくれるならね』
周りに助けを呼べるような人も、普段は貶し合う相棒も居ない。そもそもアシュアの様子がおかしいのはここ最近、今日ふと目があった瞬間の瞳の揺らぎを忘れることは出来ない。
そもそも今この人を放っていていいのだろうかとも思う。そう悩んでいると影がチラついたその瞬間だった。
ドンッ!!!!
キジは体を大きく震わせおそるおそる音のした方を見やる。
アシュアの足が自分の腰あたりすれすれを抜け壁に当たっていた。ぶるりとしながらアシュアの方に目線を移すと、青空のような青い目がドロリとしたもっと深い暗い色の青に見えた。
『アシュア、さん』
ずりっと尻餅をつくキジをアシュアは見下ろし、口元に弧を描き、自身の髪を結ったリボンをスルリと解きながら一言呟く。
『ヤルから脱いで』
獲物をやっと捕らえて実に嬉しそうな瞳は、もう逃がさないとでも言うようにキジを射抜く。
きっと彼女の満足いくまで解放されることはないのだとキジは悟り、そっと瞳を閉じた。