さすがに何かの聞き間違いではないか。そう思って、もう一度言ってくれるよう視線と首の角度で促した。
「────お暇をいただきたいのです。暫くの間」
目の前の男はほんの少し口の中で言葉を転がしてから、それでもやはり先刻と寸分違わぬ口上を吐き出し、再び深々と頭を下げた。
「……湯治にでも行くのか? 先日の、」
「いえ、傷はもう塞がりました。技を磨きに参りたいのです」
伏せたままの赤毛が、書状を読み上げるような声を出す。まさか言わんとすることを全て書き出し練習してから来たとでもいうのだろうか。彼なら或いは、やりかねないとも思う。そうだとしたら、この男がそこまでするほどの意思を固めているのだとしたら、──止めるのは骨が折れるかもしれない。
2943