どこまでもどこまでも、高く高く飛んでいけそうな青い空と、白い絵の具をそのまま塗ったように真っ白な雲。
絵に描いたような夏空の下で、文句ばかり達者な二人のシャツも、また空とおなじ青。
「先生もさー、あんなにこってり絞ることないじゃんね。」
「先輩、反省文十枚も書ける語彙力ある?手伝ってあげよっか?」
「はぁ?余計なお世話!」
大体、他人事みたいな顔をしている、黙ってれば可愛いこの生意気な後輩だって、同じく反省文十枚の刑を科されているというのに、どうしてこう余裕たっぷりなのか。
お世辞にも爽やかとは言い難い温い風が、全身にまとわりつく感覚を、瓶ラムネの冷たさと清涼感で濁しながら、さて、明日朝までにこの課題をどう片付けたものかと思案する。
「ねー、こいと先輩ってさ」
「今度は何?」
またおちょくって来るなコイツ、と気だるげな目で一瞥すると、ビリーもこちらを見ていて、少しだけドキッとした。
「僕のこと好きでしょ」
予想だにしない一言に、ラムネが手から滑り落ちそうになった。
普段から突飛なことを言い出す子ではある、けどちょっとそれはあまりにも唐突過ぎないだろうか。
「な…いや……!急になに!?」
「そんなに分かりやすいリアクションって、ほんとにあるんだね」
動揺した私をからかって、無邪気にケラケラと笑っている。
天使の顔した悪魔って言うのは、きっとこう言うやつのことを言うんだろう。
「で?どうなの?」
ん?と首を傾げてこちらを見る目を、直視出来なくなった私の気持ちなんて、誰がどう見たってわかるものなのに、敢えて私の口から聞きたいらしい。
ほんっと可愛くない!
「す………だよ」
数秒かもしれないし、数分かもしれない間を開けて出た一言は、炭酸のぱちぱちと弾ける音と、けたたましく鳴く蝉の声にかき消された。
…別に私の声が小さかった訳じゃない。
「なんて?もう一回」なんて言う、顔にでかでかと、ちゃんと聞こえてましたと書いてある声の主を無視して、残りのラムネを一気に飲み干し、「捨てに行ってくる!」と雑に言い残して走って逃げた私は、まだ素直にはなれないらしい。
空き瓶の中で振られてコロコロと鳴るビー玉と、自分の心音が、夏の空に反響してうるさい。