五伊地「あぁ、やっぱりダメだったか…」
ドンドンドンと今にも突き破ってきそうな勢いがするノック音と仕事用のスマートフォンが同時に鳴り出したとき伊地知は全てを察して天を仰ぐ。
「伊地知、おい居んだろ、伊地知ってば」
せめてシャワーを浴びた後にして欲しかった。
そんな自分の心情など考慮してくれる筈もなく、スマートフォンは一向に諦めてくれずひたすら鳴り続け、扉の向こうにいる彼は勿論のこと電話相手も同じく怒り心頭なのが変にある勘が察知する。
優先しなければならないのは圧倒的に電話の方なのだが、ホテルの部屋で大きな音を遠慮なくたてる彼を苦情が来る前にまず相手にしなければならない。
「いますよ、います、いますって」
つい自身も声を張り上げてしまいながらも慌てて扉を開く。
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