ドラマチック 六月は身体が重い。全身を湿気が包み込み、マスクの中が息苦しい。酸素が雨粒に溶け出してるんじゃないかと錯覚するほど雨粒は大きく、靴が弾ききれずに濡れていく。
駅のホームが、景色を反射するほど濡れていた。屋根のあるところに避難している人々はみんな気怠そうで、この梅雨の空気にやられているのだろうと推察する。肩を丸めて手の中の小さな四角の中を覗いていて、今生きているこの場所をないがしろにして、ネットの中を泳いでいるあの人たちも、みんな電車が来たら吸い込まれていく。電車は無機質に俺たちを運ぶ。雨でレールが濡れていてもお構いなしだ。俺たちは気持ち悪くなったぐしょぐしょの靴じゃ歩幅も変わるのに。
電車にわざわざ乗ってるのは、アイツに会いに行くためだった。久しぶりに外で飯でも食おうというあいまいな約束をしたまま、アイツは仕事に向かってしまった。俺は仕方なく傘を二本持って電車に乗る。どうせコンビニで買ったりしていない。俺が持っていかないと、雨なんか屁でもないと言わんばかりにこの空の下を走らせることになる。
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