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    nonstopbus0

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    こねこねしたら出来たナニカ
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    シルの玄孫くらいの代の話 私の家には、一枚の肖像画がある。
    青と緑の宝石が惜しげも無く使われているそれは、代々当主によって厳重に管理され、日の目を見ることはほとんどない。しかしその美しさは目に焼き付いて離れないほどで、誰に見られるわけでもないこの絵に揺るぎない価値を感じさせた。
     それは、統一王国の初代国王と大司教の肖像画であった。

     統一王国の北の果て。異国との境に位置する由緒正しき我が家は、かつて英雄の遺産の無比なる力をもって他国を牽制し、その恩として国王より重大な辺境伯の地位を賜った。しかし高祖父にあたるシルヴァン=ジョゼ=ゴーティエの代から、我々の役目は血を流さなくなった。
     俗にフォドラ統一戦争と呼ばれる大戦で、私が生まれた国の前身であるファーガス神聖王国は勝利を果たした。王家伝来の類まれなる膂力を持つ当時の王と、前大司教より直々に後任に据えられた才気煥発な大司教​──その時分はまだ軍師であり大司教代理であった──によって、膠着状態に陥っていた戦線はみるみるうちに帝国まで押し上げられ、まもなく五年に及ぶ戦争は終結したと記されている。王は、戦争を終わらせたこと、対話と友愛を重んじ血を流さない政治を目指したことなどから、救国王という諡で現在まで絶えずその名が残っている。そしてその王を支える忠実な臣下として、我がゴーティエ家もまたあり方を変えてゆくこととなった。
     初代国王であるディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッドが君臨していたとき、我がゴーティエ家の当主はシルヴァン=ジョゼ=ゴーティエであった。彼の人は若い頃はたいへんな女癖の悪さでその名を馳せており、後世の功績のみを知る人に説明するには少々心苦しい逸話がたくさん残されている。その一方で、ディミトリ王がまだ王子であったときから良き兄貴分として心を砕いていたという事実も伝わっている。高祖父の人柄は話に伝わっているばかりだが、彼が王の道を支えるべく手を回し今に遺された全てが、彼という人を物語っているようにも感じられる。彼もまた、対話と友愛を愛した人であったのだ。
     ゴーティエ家が現在のあり方に至るまで、色々な苦難と悲嘆の歴史があった。当家はその昔、家宝として伝わる英雄の遺産、「破裂の槍」を振るい、北方の民スレンと境界の奪い合いをしていた。領地を守るために英雄の遺産は必須であり、それは英雄の遺産を扱える人間が必須であるのと同義だった。英雄の遺産を扱うには紋章がいる。紋章は、ときに人々に希望を与え、ときに両刃の剣のように誰も彼もを傷つけた。そうして傷ついた中のひとりに、彼が居た。
     呪いと言っても過言ではないその血を、それでも彼は手放さなかった。それは辺境伯という輝かしい地位に固執したのでも、あさましく名誉にしがみついたのでもなく、ただ真摯に己の呪いと向き合った結果だった。彼が家族からどんな扱いを受けてきたかということは手記に書かれており、ある程度知ることができた。それが決して同情欲しさのために遺されたものではないことを、我々は言うまでもなく知っている。呪いを変えたかった。紋章を持つことは呪いでも祝福でもないと、子の世代に伝えたかった。
     泰平の世を目指す王のもと、彼はスレンと戦わずに済む道を模索した。その道は未だかつて誰も通ったことがない道であり、誰も予想ができない旅だった。それでも彼は成し遂げたかった。愛すべき二人の人物に捧げた誓いと敬愛が、彼の停滞を良しとしなかったのだ。

     肖像画には、美しく輝いている金髪を持つ男性と、静謐な光を湛える白緑色の髪の女性が描かれている。それが初代国王夫妻だということを知らない者は居ない。ひと目で高価だと分かるその絵は、しかし我が家にはいささか不釣り合いな気もした。ここまで贅を尽くしたものなら、王宮に飾られていても何ら不思議はない。見事な筆致によって描かれたそれは、むしろ国王への献上品でなければならないような出来と佇まいである。一体なぜ、このようなものがここにあるのか。私はこの絵と向き合うたびに不可解な気持ちになった。人気の色男や美女の姿絵を若者が持ち歩くのとは訳が違うのだ。
     ぼんやりと、昔父に訳を尋ねた記憶を思い出した。父は「決意のようなものだろう」と言っていた。その時は全く理解ができなかった。それはどんな決意で、なんのためなのか、この絵は決意とどんな繋がりがあるのか?きっと、今ならわかる。彼は、彼らを​───彼らが目指した世界を、守ると決意したのだろう。
     王の美しき魂は穢れを抱えていた。だがそれゆえに、美しさの「意味」を知っていた。絶えず血の雨が降ったこの世界で、昨日つぼみだった花が今日咲いて笑顔になれるような、そんな明日を目指していた。彼はこの絵の前に何度立ち、何を思っただろう。それは分からずとも、連綿と受け継がれてきたこの命とこの絵が、私の歩むべき道を教えてくれるような気がした。
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