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    takanawa33

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    転生年齢逆転の悠七③

    「あれさ、本気で言ってるの?」
    「あれって?」
    「前世だよ前世、さっきも言ってたしなんかもぉ病的じゃない?」
     廊下で自販機のボタンを押してガタンと出てきた缶ジュースを拾おうとした時、ユウジこと虎杖悠仁は『五条悟』に声をかけられた。
    「本気だよ、じゃなかったらイタイ人でしょ」
     ええ~、と顔を顰める五条には前世の記憶がないらしい。
    (その割にうまくいってるよね)
     黒いスーツに黒のサングラス。これでもかと伸びている脚を支える上半身含めてミラコレも驚く高身長。前と変わらない銀髪と恐ろしいほど透き通った蒼い瞳、それでやってることは漫才師なのだから笑ってしまう。しかも相方はあの夏油傑。
    「いやもう十分イタイ人だからねユウジは」
     プシュ、プルタブを開いて炭酸を喉に流し込む悠仁の隣で五条も同じものを購入する。
    「絶対ネタだと思ってた。だってそうでも言わないと女の子に言い寄られて面倒だもんねこの業界」
    「いや、なんていうかさ、逆なんだよね」
     五条が首をひねる。
    「有名になってから前世のことを言ったんじゃなくて、前世の人を見つけたいから有名になったの。だってこんだけテレビに出てたらどっかで気付いてくれるでしょ、ナナミンは」
    「お、それが前世のフィアンセの名前?」
    「うん、そう。でもフィアンセなんかじゃないよ、ただ俺が勝手に好きだっただけ」
     五条はふぅんと頷いてから空になった缶をゴミ箱に放り投げた。
    「同じ時代にその人がいるとは限らないじゃん、もしすっごい爺さんだったら?」
    「なんも問題ないよ。俺が全部介護してあげる」
    「赤ん坊だったら」
    「それこそなんも問題ないでしょ。大きくなるまでちゃんと待ってから気持ちを伝えるよ」
     やっぱ病的じゃん。と言わぬが花。五条が黒いサングラスをかけなおしていると背後から声がかかる。
    「悟、もう時間がくる……ああ、ユウジくん」
    「どうも、夏油さん」
    「世話になったね、そういえば今度の収録でまた一緒になるらしいよ。その時もよろしく」
     ヒラヒラと手を振って去っていく夏油の後ろをひよこのようについていく五条は少し振り返って口を開く。
    「明日の夕方、祓ったれ本舗のMCで前世コーナーするから、見てみれば?」
     ありがと、と返してスーツの後ろ姿を見送った。
     活動のおかげなのか、世間はオカルトブームなのか、ユウジの望む通り前世を取り扱う番組が増えてきた。それをくまなくチェックしてヒントがないか探している。絶対に見つけてやるのだ。七海建人を。



    『ってわけでだれかさんのおかげか今は前世が流行ってるらしいよ』
    『悟は覚えてる?』
    『いや全然、っていうか僕は信じてない派なんだよね、ここにいる僕だけが僕でしょ普通』
    『驚くくらい次の映像が視づらくなるから冷めた持論はそこまでにね。では街の人たちに調査をしたので映像をみてみましょう』
     移動時間、スマホで番組を確認する。映像に出てくる人々の装いは夏服、今は秋に近くなっているから収録されたのは一か月以上前だろう。
     大した期待はしていない。ハズレで当たり前だと思っている。けれど見てしまうのはこの不毛な恋心を少しでも癒すためだ。
     見つからなかったら、そもそも転生するなんてありえない、夢見がちなんだね。悠仁が話せば冗談だと笑う人間もいれば同情する人間も、頭がおかしいんじゃないのかと怪訝な目で見てくる人間もいる。時にはいつか別の恋ができるよと慰めてくる人もいるけれど馬鹿いうんじゃない。魂に刻まれたこの想い、忘れたくても連れてきてしまった前世からの気持ちがそんな簡単に消えてたまるか。もしこの想いが消えたらそれは悠仁の消える時なのだ。
    (そしたらまた転生するのかな、俺)
     実に不毛だ。同じ時代に再び巡り合うことなんてないかもしれない。仮に生まれていたとしても日本じゃなければちょっと辛い。アカデミーでも獲るしかないのか知らん。そうなるとちょっと骨が折れるな、悠仁はイヤホンから聞こえてくる街の意見を聞きながらため息を吐き出した。
    『前世? よくわかんないけど夏油様を見てるとすっげぇテンション上がる』
    『ね~、私たち双子なんだけど前世でも絶対そうだったって言えるくらい気が合うから』
    『え、これ夏油様の番組なの? うっそ! 見てますか? 多分前世からお慕いしてます!』
    『私もです!』
     クレープ屋の前でインタビューされた双子が手を振っているのをワイプで見ている夏油が穏やかに微笑んでいる。次のインタビューに移った。
    『前世? よくわかんないです! あ、でもこの前クラスの女子がそれについて話してましたね――あったらいいか? いや、なくていいですね! 今が十分楽しいので!――他に? うーん……そうだ、友達が前世について話してくれました。なんか前世もデンマークのクオーターだったって、面白いですよね』
     悠仁はスマホを持ち上げ、バーに指を合わせてツゥっと巻き戻した。
    『前世もデンマークのクオーターだったって』
     ピタリ、停止させる。
     黒い髪の少年、沖縄で撮影したらしく首里城が背景に見える。
     沖縄の人間だろうか、でも訛りは感じない。旅行にきた学生か。隣に小さな女の子が映っている。妹かもしれない。
    「伊地知さん、ちょっといい?」
     隣に座って予定の調整をしていたマネージャーに声をかける。
    「この番組の、この男の子、連絡先とかって調べられる?」
     記憶はなくとも今世でも優秀な伊地知はユウジの送ってきたスクリーンショットに目を通すと「少し待ってください」と番組プロデューサーへすぐに連絡を取ってくれた。
    「はい、はい、ありがとうございます。ええ、また今度ぜひとも、はい、失礼します――放送内容を確認してもらうためにインタビューした一般人にはすべて連絡先を教えてもらうことになっているそうです。明日まで教えてもらえますよ」
    「ほんと仕事早いね、ありがと」
     いえいえと再び仕事に戻る伊地知の横で悠仁は番組の続きを再生した。けれど胸の奥でうるさいくらいに鼓動する心臓のせいで内容なんて全く耳に入ってこなかったし、またハズレだったらと憂う気持ちのせいで目的地まで何も手につかないのだった。
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