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    sakine12

    @sakine12

    咲音と申します。快新の小説ばかりを書いております。よろしくお願いします。駄文を投げ込んでいこうと思ってます。

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    sakine12

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    久しぶりに投稿させていただきます。2022年新一さん誕生日話です。
    二人は大学生でGW休み中のそんな感じの設定。
    珍しく自分の誕生日を自覚している新一さんがモヤモヤするお話です。
    昔書いた話をリメイク。多分、知っている人は少ないと思う。
    少しでも楽しんでいただけますと幸いです。

    地球は丸く、太陽が当たる場所は常に半分。完璧ではいからこそ、その存在を人は愛す。「じゃぁ、ちょっといってくるから」


    工藤家の玄関前で突然そう言ったのは、快斗。
    その表情は、どこか焦っているような落ち着きのない印象だった。

    今年は珍しく自分の誕生日を覚えているにも関わらず
    その誕生日の一週間前に急に何処か外国へ行くと言い出した快斗。

    パンドラ絡みなのだろうと、新一は特に追求することもなく了承する。

    「気を付けてな」

    快斗のことだから、自分の誕生日が一週間後であることは
    解っていることなのだろう。
    だからこそ、焦っているのかも知れないと新一は笑顔で見送る。
    その自分の笑顔に安心したのか、
    快斗は案外あっさりと自分が目の届かない処へと旅立っていった。




    第一日目―――。


    そんな快斗を見送ってから、すぐに振動するスマホ。
    今日もゆっくりできないのかと、ためため息を漏らしてスマホの画面をタッチした。

    「工藤君、すまんな」
    「いえ、いいんですよ」

    いつもの営業スマイルを警部に向けて、すまなそうにしている警部に答える。
    新一のスマホを鳴らしたのは、目暮警部。
    目暮警部は、自分たちでは解決できそうもない事件に新一に協力要請を出して来たのだ。

    事件現場について事件内容を聞いてみれば何処から見ても、
    他殺であって犯人の目星も付いている。
    だが、肝心の凶器が事件現場からも、その周辺からも見つからないのだ。

    新一は、一つ息を吐いて事件を頭の中で整理していく。
    そして、事件現場である部屋をじっくりと見回して部屋の中に不自然な場所を見つける。
    変に積み上げられた、本の山。
    そして、傍にある本棚で視線が止まる。


    「……警部、あの本棚おかしくありませんか?」

    新一が指を指した
    その本棚から、凶器は発見され犯人も捕まった。
    新一は、赤いサイレンを鳴らすパトカーを独り見送り元来た道を戻りだす。
    これが、冬でなくてよかったと思いながら…。

    そして、快斗のいない最初の日が終わる。





    第二日目―――。


    特に何事にもなく、ただ一日が平和に終わった。






    第三日目―――。


    今日は、何かが起こるだろうと構えていたが
    テーブルの上に置くスマホはシンッと静まり返ったまま。

    若干警戒しつつ、新一はたまには、誰にも邪魔されずに過すのも悪くないと
    家の中で買っておいて読まずにいた書籍たちに手を伸ばす。

    ふっと顔を上げた時、窓から見える青空を見つめ
    快斗がいない空間に少し淋しさを覚えたが、慣れれば中々楽しいものだと
    新一はそれ以上気にすることなく文字へと視線を落とした。







    第四日目―――。


    二日目、三日目同様にゆっくりと過ごしていた新一だが
    その四日目の夜に案の定目暮警部から協力要請を受けた。

    そして、事件現場から新一が家に着いたのは12時少し前。
    午前様にならなくてよかったとほっとしたところで、新一のスマホが振動し始める。

    またかと、スマホの画面を見れば着信は快斗。
    その文字を新一は嬉しそうに見つめながら、スマホの画面をタップして電話に出た。

    「もしもし…」
    『もしもし、新一』
    「…どうした、こんな夜に」

    数日振りに聞いた快斗の声。
    まだ4日なのか。
    それとも、もう4日なのか。

    毎日一緒いて、数日前までは当たり前にあった声。
    それが、今では互いに違う場所にいてこんなにも距離が遠い。
    手を伸ばせば届く距離いた存在が、今は隣にない。

    当たり前のことは、当たり前ではないのだと改めて思い知らされる。
    互いが背負っている事情が、事情だ。
    ある日、突然…なんてこともある。
    そんな世界に、身を置いているんだと思うとどこか切なくなった。
    自分のことを大事にしないとよく快斗に怒られるけど、
    これからは少し気を付けようと思う。

    そんなことを考えながら、新一は快斗の声に耳を傾けた。

    『ごめん…日本時間で深夜だって言うのは解ってたんだけど。新一は起きてた?今は、話して大丈夫?』

    電話の向こう側で心配そうに言う快斗に、新一はいつも通り言葉を返す。

    「今、家に帰ってきたところだ」
    『それって…事件?』
    「…あぁ、そうだ。こちらは、お前が居なくても通常運転だ」
    『そう相変わらずなんだね。ちょっとほっとした…でもなんか悔しいな』
    「えっ?」
    『そろそろ新一が寂しがる頃合いかと思って電話したんだけど、残念』

    快斗の声を聞きながら、新一は笑って答える。

    「期待を裏切って悪かったな。それで…お前こそどうなんだよ」
    『俺も…用事の方は、順調。だけど早くこっちの用事終わらせて新一の隣に居たいよ…俺は…寂しい』

    言葉の最後に素直な快斗の気持ちを聞いて、思わず新一の顔が沸騰するように熱くなる。

    「あっ…えっ…その…急に言うなよ」

    自分でも何を快斗に言ったらいいのか、解らずに声にならない声を出しつつ
    ようやく羞恥心を押し殺して小さな抗議をする。

    『ごめん…だけど、俺の今の気持ちを新一に伝えておきたかったから許して』

    耳元で囁かれているような甘い声で、快斗からそう言われると新一としては何も言えない。

    「……ったく、仕方ねぇな」
    『予定よりもこっちの用事さっさと終わらせて、新一の誕生日には絶対日本に帰るから!』
    「あぁ、解ってる。お前も気をつけろよ」
    『うん…傍に居れなくてごめん。はぁ、日本に居たら工藤新一爆誕際を三日間くらいやったのに』
    「たかが、俺の誕生日でそんなことするな」

    快斗ならやりかねないと想像しつつ、軽く窘めると真面目な声で快斗から返り討ちに合う。

    『たかが、なんかじゃないよ。新一がこの世界に生まれてきたことへ感謝する日だよ。有希子さんにだって…」
    「ん?」
    『せっかく、こっちにいるんだし。有希子さんにも感謝のプレゼント送っておくわ!』
    「はぁ!?余計なことしないでさっさと日本に帰って来い!」

    電話口で叫んだ言葉に、思わず二人で一瞬黙り込む。
    快斗の表情は解らないが、笑っていることだけは想像がついた。
    次の言葉が見つからず、言葉を探していると快斗から優しい声が聞こえてくる。

    『うん、解ってるよ。おやすみ、新一。いい夢見てね』
    「……」
    『新一?』 
    「…………あぁ、おやすみ…」

    電話を切ってから、暫くその場から動くことが出来なかった。
    ドキドキする心臓を押さえながら、恋をし始めた女の子はこんな感じかと不意に思う。

    そして、快斗と付き合う前の気持ちをふっと思い出して笑った。

    「慣れっていいこともあるけど、人を鈍くもさせるんだな…」







    第五日目―――。


    朝早くから新一の家のチャイムが鳴る。
    眠い目を擦りながら玄関を開ければ、蘭が新一の目の前に立っていた。

    玄関のドアがあくなり慣れた様子で家の中を点検していく。
    そして、溜まっている洗濯やら食器を見つければ、蘭はいつも通りに怒り出す。
    新一が、なんで?と聞けば快斗に頼まれたと笑いながら言う。

    (……快斗の奴…)

    随分と手回しの良い恋人に、少し呆れながらも蘭と一緒に
    溜まった家事をせっせとこなしていく。

    夜は約束があるから、と帰って行く蘭の後姿。
    ほんの少し羨ましいと言う自分に、苦笑しながら。
    幼馴染の嬉しそうな姿を見送りながら、また穏やかな一日が暮れていく。









    第六日目―――。


    大阪から服部が来た。

    「よぉ、工藤」
    「なんだ服部かよ」
    「なんだはないやろ…」

    朝っぱらから、玄関先で響く服部の大阪弁。
    少し五月蝿そうな顔をして、新一は一言。

    「じゃぁな、服部」
    「くっ、工藤!待てぇ…おい、工藤!」

    眠い目を擦って、玄関のドアを無常に閉める新一。
    後に、残された服部はしばらく玄関先で叫んでいると、
    五月蝿いと隣人に拾われていったらしい…。

    しかし、その日も平和に過ごすことが出来た。








    第七日目―――。


    朝からソワソワして落着かなかった。
    取るもの全てが手に付かず、上の空。

    (帰って来る、やっと快斗が帰ってくる。)

    それ以外には、新一の頭には浮かばない。
    普段は、見ない雑誌を見てみたり夜はどう過そうか色々考えている
    うちに、時間はゆっくりと過ぎていく。


    午前11時53分。
    自分の誕生日には絶対帰るからと言ったはずの人はまだ帰って来ない。

    「まぁ、時差もあるし…夜かな…」

    そう独り言を呟きながら、そっとスマホの画面を見つめる。
    特に快斗からの連絡はないようだ。

    それまでは何をしていうようと思いつつ、
    まだ制覇していない小説があったことを思い出す。

    「あれを読み終わるころには、さすがに帰ってくるだろ…」

    そう思ってから何時間が経ったのだろう。
    窓を見れば、外の世界はすっかり面持ちが変わっていた。

    パタンッ―――。

    丁寧に製本された上製本の表紙を閉じて、ソファの背もたれに身体を預ける。
    お昼を過ぎても、太陽が沈み月と星が輝き始める時間になっても快斗は帰って来なかった。


    そして、0時を告げる鐘がなる。
    日付は、変わってしまった。
    新一は、時計を見つめながら小さく呟く。

    「…………バーロー」

    誕生日には帰ってくるから、そう言った恋人は未だ帰らない。
    暗い家の中に、新一独りが取り残されている。
    誕生日だからと誘ってくれた知人たちの言う誘いを全部断って、
    帰ってくるはずの恋人を待ちつづけたのに、その恋人は気配すら見せない。

    「快斗の奴…帰ってきたらまず蹴りからだな」

    (それから…。)

    「……早く…早く帰って来い…よ…」

    じれったくなった新一は、外の空気を吸おうとバルコニーを開ける。
    遠くを見れば、薄っすらとネオンが輝いて見える。
    そして、上を見上げると指で数えられるくらいの星が小さく輝いていた。
    けれど、いつもいるはずの月がない。

    「今日は、新月だっけ…?」

    (なんかついてないな…。)

    夜風に当たっていると、不意に赤井バラの花びらが舞い落ちてきた。
    何事かと思い視線を上に向ければ、そこには待ちわびた人。

    「新一、誕生日おめでとう!」

    さっきまで居なかったはずの人が、新一の横に立って祝いの言葉を発している。

    この状況が新一には理解が出来なかった。
    工藤新一とあろう者が、すべての思考が全て停止したのだ。
    そして、動きも呼吸をすることさえも。
    ただ、髪だけが夜風に靡いていた。

    白い魔術師は、そんな新一の状況も解らずただニコニコと笑っている。

    そんな表情を見ていると段々と怒りが沸き起こり、
    嬉しそうにしてる怪盗に取り敢えずと怒りをぶつける。

    「バ快斗!今、何日の何時だと思ってんだよ!!!」

    そして、思いっきり大きな声で怒鳴った新一に快斗は、
    状況を把握できていない表情をする。

    「えっ、ちょっと待って新一…何を怒って」

    焦る快斗の言葉に、新一はいつもの冷静さを取り戻していく。
    快斗が新一の誕生日に帰って来れなかった理由。

    それは、時差だ。

    (怪盗キッドともあろうものが時差の計算も出来ないなんて。)

    「……はぁ―――――」

    長い溜息を快斗の前で吐く。

    「……お前のその様子だと、今日が何日の何時だから理解できないんだな」
    「今って…4日の0時ちょっと過ぎでしょ?ちゃんと間に合って…?」
    「申し訳ないが…今日はもう、5日だ」
    「………えっ、嘘でしょ!!!!!」

    両手を頬に当てて、快斗はその場に固まった。
    新一の誕生日を間違えたのはまさしく、快斗の時差ボケだ。
    快斗の顔が赤から青、そしてだんだんと白くなっていく。

    そんな快斗を見ながらちょっと可哀そうかとも思うが、
    新一としても寂しかったのだからこれくらいの言葉を吐いてもいいだろう。


    「でも、お前が居ないのもなんか楽しかった」


    固まり続ける快斗に追い討ちを掛けるようにそう言って、
    悪戯っぽく笑うと部屋から固まる怪盗をそっとバルコニーに出す。

    そして、きっちり窓の鍵はもちろん、カーテンもきちんと閉める。
    快斗のことだ、このくらいしてもなんてことない。
    その内、ちゃっかりと部屋の中に入ってくるだろう。
    しかし、今だけは外で反省はしてもらう。

    「新一待って、新一!!!ごめん、本当にごめんなさぁ~い!!」

    外では、快斗が謝罪の言葉を言い続けている。
    バンバン、窓を叩く音。

    「窓割れなきゃいいけど。でも……快斗と居る方が一番なんだけど…な」

    (まぁ、こんなこと一生本人の前でなんて言ってやらない)

    そして、数分も経たない内に隣人から新一の携帯に電話が入る。


    『…近所迷惑よ』


    その電話に嬉しそうな声で、もうすぐ終わるからと言って隣人を宥めて電話を切る。
    新一は、取り合えず自分のもとに帰って来てくれたことに安堵して笑う。

    何もなくてよかった、と――。

    新一にとっては、最大のプレゼントが帰って来たから、それでよしとする。
    こんな誕生日もたまには、いいかなと思いながら。
    自分が生まれた日をこんなにも意識して過ごしたことがなかった。
    だからこそ、解かる想い。

    今の日常は、当たり前ではないのだと。
    一日、一日を大事にしながら。
    伝えたい思いや願いは、叶えられる時に叶えておこうとそっと誓う。

    自分がこの世界に生まれて、快斗に出会えた奇跡を感謝しながら。

    また、明日昇るであろう太陽を快斗と一緒に見ようとそっとバルコニーの鍵へと手を伸ばした。





    END
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