眠れぬ夜の恋人たち体を包み込んでいた温もりが離れ、意識が浮上する。裸眼のせいでぼやけた暗い視界の中でのろのろと揺れる背中を見つけて、またか、と胸中で溜息をついた。
「獅子神」
呼び声に、子供のそれとは程遠い広い背中がビクッと跳ねた。悪戯を咎められた幼子のようにぎこちない動きで振り返り、揺らぐ視線がこちらに向けられる。震える唇が、むらさめ、と名前を呼んだが、掠れた喉からそれが声もして出ることはなかった。
獅子神は、たまにこうなる。かつての、貧しさと孤独に怯えて震えていることしか出来なかった、無力な子供に戻ってしまうのだ。きっかけは分からない。悪夢でも見たのかもしれないし、他に理由があるのかもしれない。それはきっとどう足掻いても自分には知り得ないことだし、恐らくだが、獅子神自身にも分かっていないのだろう。
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