政略結婚ぶぜまつ 松井は幼い頃から屋敷の中だけで生きていた。
高価な家具が揃えられた部屋の中で、本を読み、ときどき遠くに見える街の様子を眺める。朝と夕、部屋に運ばれてくる食事はパンにスープ、主食に野菜もついていたけれど、少食の松井にはそれほど必要ではなかった。
十数年、屋敷だけの生活しか知らないこの身体はいつしか外の世界の興味を失わせた。このまま何をすることもなく呼吸を繰り返し、そして死んでいくと思っていた。
「松井ー? 入るよぉ」
太陽も高くなった頃、松井の世話のために入ってきたのは従者の桑名だ。松井とは同い年で、父の側近の息子。それから気のおけない幼馴染。
「松井さっきまで寝てたん? 勉強してなかったでしょ」
「うるさいな……今からしようとしてたんだよ」
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