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    BON_bbb517

    @BON_bbb517

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    夢絵しか持ってねえ

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    BON_bbb517

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    審神者 沈丁花小鳩(16)が就任する話

    うちの富さに(導入)「本丸」と呼ばれるお城に着くと同時に私は大きくため息をついた。

     審神者のおばあちゃんが引退した。
    本来なら沈丁花家の審神者業はそこでおしまい……の、はずが沈丁花家本丸の戦績を政府から買われ「審神者の適性のある私」へ「引き継ぎの打診」が来た。
     あの時「やりたくないです」ときっぱり断ればよかったのに「学校に行かなくて良い」とか「政府が生活費を全部出してくれる」とか、嘘みたいな甘い話にまんまと引っかかって承諾をしてしまった……というわけだ。

     やっぱりやりたくない。このまま引き返して政府に断りの連絡を入れようか。でも先にこの本丸に荷物送っちゃったんだよな……。
     そんな調子でしばらく門の前で唸っていると、中から小さな男の子が手を振ってきた。

    「誰」
    「君、小鳩でしょ?トキちゃんから話は聞いてるよ!」

     トキ。これはおばあちゃんの名前だ。親しげな呼び方に驚いているうちにも男の子は私の手を引っ張り、いとも簡単に敷居を跨がせ「部屋まで案内する!みんなで掃除したんだよー」「ほんとはトキちゃんの近侍が案内する予定だったんだけど、小鳩はでっかい男が苦手なんだよね?だから短刀の俺が指名されたんだー」とずんずん中へと進んでいく。


     案内された部屋は和室だった。
    広くも狭くもない、一人用の部屋だ。隅には事前に送っておいた段ボールが数箱積まれており、中を開けるか開けまいか悩む。

    「俺、包丁藤四郎っていうんだ。他にも兄弟がいるから俺のことは包丁って呼んで」
    「物騒な名前だ」
    「みんな小鳩が来るの楽しみにしてんだよー。俺だけ先に会えてなんか良い気分」

     すると包丁は「荷物解くの手伝うよ!」と私が手をつけていなかった段ボールに駆け寄るため「これは自分でやるから」と止める。これを開けてしまったらもう引き返せない気がするからだ。

    「一人じゃ大変でしょ?ふたりでやったほうが早いよ」
    「平気だよ、ほら、もう帰っていいから」
    「やだやだ、小鳩のお世話をトキちゃんから任されてるんだもん」
    「私はひとりでも大丈夫だから」

     そんな応酬をくりかえしていると、すうっと襖が開き「揉めてるみたいだね」とクリーム色の髪をした男の人が顔を覗かせた。
     お父さん以外の男の人を見る機会なんてゲームか漫画でしかないので体が硬直するも、彼はこちらを怖がらせないためか「とって食べたりしないよ、少しお話がしたくてね」とそのままの距離を保ちながら廊下に腰を下ろすと「僕はおトキちゃんの近侍だったんだ。髭切、聞いたことあるかな。もしかしたら他の名前かもしれないけれど」と首を傾げる。
     彼に怖そうな雰囲気は……ない。近侍についてはおばあちゃんから聞いていた。髭切は白くてフワフワで、少し忘れっぽい男士だ。

    「ええと……少しだけ……」
    「君はおトキちゃんの孫のドバトだよね」
    「小鳩です」

     一瞬冗談かと思ったけれど、彼は「そう、小鳩だね」と「ドバト」と間違えたことを少しも笑うことなく「君が来るのをみんな楽しみにしていたんだ。最初は慣れないかもしれないけれど、きっとすぐに平気になるよ」とにっこり微笑んでから立ち上がり「またお話ししようね」と帰って行く。

    「……私、歓迎されてる?」
    「なんでそんなこと聞くの?」
    「だ、だっておばあちゃんは85歳でしょ?私、16歳だよ?小娘とか思われない?いじめられない?全員髭切みたいな感じなの?刀剣男士って全員かっこいいの?近づいてほしくないんだけど可能?」

     体の中から溢れてくる疑問をそのまま早口で告げると、包丁は「もっとゆっくり喋ってよー!」と私の背中をぽかぽか叩いてから「俺らにとったら85歳も16歳も同じだよ」「さっきも言ったけどみんな小鳩が来るの楽しみにしてたよ。俺の言葉ってそんなに信用ない?」と唇をとがらせる。

    「……すみません」
    「わかればよろしい!」

     包丁はふんと鼻を鳴らしたあと「じゃあ早速、小鳩には近侍を決めてもらいまーす」とどこからか写真の束のようなものを取り出してきた。

    「え、今決めるの?」
    「早いうちに決めたほうが慣れるでしょ?」

     得意げな表情のまま写真の束を床にばらばらと並べ「ここから選んで」と私へ催促をする。

    「いや、みんなのこと知らないしまだなにも準備をしていないというか」
    「いーからいーから!」
    「じゃあ君……包丁にするよ」

     これで一件落着と思いきや「俺は練度も低いしまだ修行行ってないからダメなんだって。それにトキちゃんが男になれる練習も必要!って言ってたよ」と衝撃的なことを告げる。強制的に異性をそばに置けと!?
     あまりのことに言葉を失うも、包丁は「俺もできるだけ近くの部屋にいるようにするからさ、困ったら声かけていいよ」と慰めるみたいに言う。

    「審神者、なれる気がしない」
    「適正あるんだから審神者だよ。ほら、近侍決めて」
    「だめ、頭痛くなってきた」

     そのまま畳に横になると、痺れを切らした包丁は「なら俺が決めちゃうよ」と写真の束をまとめる。

    「小鳩はどんなのがいいの?」
    「どんなのと言われても」

     まだ審神者になると決めたわけではないけれど、顔で選んであとから困るのだけは避けたい。そのことを伝えると、包丁は「漫画好きなんでしょ?そこで好きなのとかでいいからさ」と足をばたばたと揺らす。

    「なんで漫画のことも知ってるの」
    「トキちゃんが言ってた!今度俺にも読ませてね」

     おばあちゃん、どこまで私の話を……。あとで電話をすることを誓いながら包丁の「インテリ?とかワイルド?とかあるでしょ?そういう好み教えて」という質問に向き合う。

    「なら…王子様…かも」

     なんとなくだけど、これまでやってきた乙女ゲームでも優しくて親切でカッコいい「王子様タイプ」が好きだったからだ。そんな刀いるの?と思いきや「王子様ならねー、白いのとピンクのと青いのがいるよ。どれがいい?」と告げられた。

    「3人もいるの?というかなんで色?肌がピンクなの?」
    「あーもう!いいから決めて!」
    「じゃあ……白?」
    「おっけー、白ね!今連れてくる!」

     部屋から退出する小さな背中を見送るも、心の準備をする間もなくすぐに2人分の足音とともに包丁が帰ってきた。

    「じゃーん!富田江でーす」

     連れてこられた「私の近侍」は漫画やゲームで見たことのあるような、確かに「王子様」としか言いようのないきれいな容姿をしていた。
     でもそれ以上に……体がデカい!!
    近くに120センチくらいの包丁がいることもあり、自動的にさらにデカく見える。こちらが体をカチコチに固まらせているうちにも彼は「入っても平気、かな」と首を傾げるためなんとか首を縦に振る。

     富田江と紹介された男士は向かいに、包丁は私の隣に座り「富田はねー、江の王子様なんだって」と改めて紹介してくれる。何を言っているのか全然理解できなくて彼のほうを見れば「私もよくわからないんだ。でもそれなりに弁えてはいるよ」と頷く。

    「小鳩……トキと同じで名前が鳥なんだね」

     すると富田は少し考えたあと「確かトキの子の名前も鳥だったんじゃないかな」と金色の瞳を私のほうに向ける。狐っぽい吊り目に捕捉されるのがなんとなく怖かったのですぐに目をそらし「ええと、私の母はツバメで…」と審神者の適正のない母の名前をあげたが、富田は名前には反応せず「顔色が悪いね、疲れてしまったかな」と席を立とうとする。

    「今日はこの辺にしておこうか」
    「もういいの?」
    「無理はさせられないよ。今日はよく休んで」

     富田は包丁へ「あとはお願いできるかな」と言うと、もう一度私のほうへ目をやって「明日の朝にまた出直すよ。本丸にようこそ、小鳩」と部屋をあとにする。

     ほんの少し話しただけなのにどっと疲れてしまって、唸りながら畳へ寝転がるも包丁は私の心労なんて少しも知らないようで「寝るなら布団敷く?」なんてけろりと言うのだった。



     翌日、約束通り富田が部屋まできたが襖を5センチくらい開けて「慣れるまでは包丁といます」と言えば「わかったよ」とすぐに帰ってくれた。
     積んでいた段ボールは私が寝ている間に包丁が解いてしまっていたため絶望をしたが、ここまできたらもう引き返すことはできないのだろう。

     腹をくくるように「あまり外に出たくない・人と話したくないこと」を包丁へ話すと、仕事用のタブレットを渡された。端末を使って男士たちに指示をするらしく、おばあちゃんが編成した部隊が5つ並んでいたので包丁に言われるがままに指示を出して、あとは部屋でアニメを見て過ごした。

     審神者業は思っていたよりものんびりなのかもしれない。部屋から一歩でも出るとイケメン(刀剣男士)が普通に歩いているのでエンカウントしないようにトイレへ行くのはホラーゲームのようだった。

     時々包丁が「短刀なら平気だよね?」と小さい子たちを連れてきたのでみんなで絵を描いて過ごしたりした。包丁の言うとおり小さい子の相手をするのは好きなので、就任から1週間経った今では「短刀のみ審神者の部屋入室可」になった。





     就任からさらに1週間後。いつものようにタブレットでアニメを見ていたら包丁に「外出ないの?」と退屈そうに尋ねられた。

    「タブレットでできるじゃん」
    「みんな小鳩に会いたがってるのに? トキちゃんはみんなとご飯食べてたのに小鳩はそれもしないじゃん。つまんなーい」
    「……会わないのってやっぱ、まずい?」

     おばあちゃんと比較されると自分の今の立ち位置が危うさを実感する。私の問いかけに包丁は「いや、トキちゃんから小鳩は人見知りって聞いてたし、みんな理解はしてるよ」と口では言うけれどやはり不満そうだ。

    「いい加減頑張ったほうがいいか……」

     私がぼそっとこぼした一言を聞き逃さなかった包丁は「まずは富田と一緒にいることに慣れたら?」「富田は小鳩の近侍なんだしさ」と目を輝かせる。

    「2週間も会ってないのに?もう近侍は包丁でいいよ」
    「だめだめ、最初に近侍って決めたのは富田でしょ?俺すぐ連れてくるから!」

     包丁はパタパタと退出をすると、初日の時みたいにまたすぐに富田を連れて戻ってきた。2週間ぶりに見ても体がデカい。
     前みたいに包丁が仲介してくれると思いきや「あとはお若いふたりで」とどこで覚えたか分からない言葉を言って出て行ってしまった。

     男と女、密室、ふたりきり。
    どう立ち回ればいい!?なにより私には2週間富田を放置している罪がある。さすがに怒られるかもしれない。どうすれば良いかと畳の目を数えかけていたら「小鳩のペースで構わないよ。焦るようなことでもないからね」と富田のほうから声をかけてくれた。

    「……富田は、私が審神者でもいいと、思ってる?」
    「どうしてそんなことを聞くのかな」
    「だって……部屋から出ないし、短刀以外と話さないし、あんまりよく思われてないと、思って……」

    私のたどたどしい言葉の本質を見抜いたのか富田は「トキと比べてるの?」とすぐに首を傾げる。

    「だって、おばあちゃんは全振と仲が良かったんでしょ。比べるなってほうが無理だよ……」

     どの刀もおばあちゃんに戻ってきてほしいと思っているんじゃないか、でも苦手なものは苦手だ。そんな悩みをこぼせば、富田は「小鳩はトキの大切な人だよ」とゆっくりと告げる。

    「確かにおばあちゃんの血縁者ではあるけど…」
    「違うよ。大切な人の大切な人を悪く思う刀なんてこの本丸にはいないよ」

     富田の言葉に思わず顔をあげれば「どの男士も毎日君の話をしているよ」「部屋に入れる短刀が羨ましいとか、遠くから小鳩の姿を少し見られたとかね」と楽しそうに教えてくれる。

    「話したこともないのに?」
    「私たちはもう何百年も生きているから待つのは得意なんだよ。君が思うよりもみんな君を歓迎してるよ」
    「……そっか」

     富田の言葉に少しほっとしていると、彼は「少し外に出てみようか」と閉じていた襖を少し開ける。

    「外って」
    「もちろん、君が良ければだけどね」
    「……庭、くらいなら」
    「いいね」

     導かれるように立ち上がって富田の後ろにつく。やっぱり富田はデカすぎるなと思ったけれどさっきよりは怖くない。
     誰かが用意してくれたのか縁側に私の外履きが出ていたのでそれを履いて初めて庭に出た。

    「豊前がお菓子を買ってきたんだ。庭の散歩が終わったら部屋で食べよう」
    「豊前……豊前江だよね」
    「そうだよ。小鳩も勉強してるんだね」
    「一応、少しは」

     タブレットに入っていた資料を見ていたから覚えただけなのに富田はどこか嬉しそうだ。

    「……会ってないのに名前は知ってるなんて、変?」
    「変じゃないけど……私たちのほうこそ小鳩に嫌われていると思っていたから歩みよってくれて嬉しいんだ」

     それから少し本丸内を散歩して、偶然会った内番中の男士たちと話をしたりした。どの男士も丁寧に自己紹介をしてくれて「君が平気になったら歓迎会をしたい」とか「トキちゃんに目元が似ている」とかそんな話をしてくれた。

     散歩を終えて部屋に戻れば、包丁が「富田と仲良くなった?お散歩楽しかった?」と一番に聞いてきたので「うん」と短く返せば「これまで厠とお風呂にしか出入りしなかったのにすごいよ~!」と必要以上に喜ばれた。
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