ジロノコSS 2本[誰かがつくったもの]
「え、凄くおいしい」
「……そう?」
少し遅くなった部活終わり。
部のみんなでうどんを食べたが全然足りない。
なので、当然家でも飯を食べる。フォワードは筋肉が命。
沢山食べて、沢山鍛えなければならない。
帰り道での話の流れで、能古は次郎丸の家で「筋肉飯」を食う事になった。
筋トレが趣味の次郎丸は、当然食にもこだわる。
親に筋肉仕様の食事を毎度要求するのは、少し申し訳ない。なので彼はいくらか自前で拵えるのだ。筋肉飯を。
今回、能古はそのご相伴に預かることになった。
「このササミのフライとか絶品だよ。すごいな、龍は」
「……うん」
調理の手際がいい。包丁捌きが美しい。お店で出せるくらいに美味しくて、その上高タンパクなんて、素晴らしい。
能古は次郎丸を褒めちぎる。いつものニコニコとした顔で。
だが、違う。
いつものではない。
いつだって笑顔の能古だが、この顔はいつもよりもっと朗らかで、柔らかだ。
それを、幼馴染の次郎丸は分かる。知っている。彼はとても喜んでいるのだ。
誰かがつくってくれたものが好き。
暖かくて嬉しくなるから。
そう言っていた能古を、次郎丸は覚えていて。
それから、ずっと、ご馳走の機会をさり気なく伺っていた。
そして、今日。
「……新太が喜んでくれて、嬉しい」
次郎丸のお腹と胸が、いっぱいになった。
ーーーー
[わいわいとするより]
能古新太は賑やかな場が好きだ。
皆んなが楽しくしている中に紛れて、その幸せに交わるのが好きだ。
だが、静寂も愛している。
釣り好きなら同意する人も多くいると思うが、孤独と静寂がもたらす、あの穏やかさがまた良いのだ。
賑やかと、静寂。
どちらも良い。
能古新太の幼馴染にして親友も、正にそんな感じだ。
賑やかな蛍流と静かな次郎丸である。
能古新太はどちらも好きだ。
だが。
どちらがより好きかと言われたら…
「……新太」
「なに?」
「……おかわりも、あるんだけど」
静かで、頼りになる、幼馴染。
「ありがとう、いただくよ」
「……うん、いっぱい食べよう」
どちらかと言われれば、この控えめな笑顔が好きだ。
ーーーー