出張懺悔室「あなたって経験ないの?」
ブラのホックを取り付けながら、ロサリアはベッドに座り込んだガイアに問う。
「失礼だな、俺がそんな風に見えるのか?悲しいぜ」
「まるで悪い事をしてしまったかのようにやめたんだもの。思いのほか初心だったから悪い事しちゃったわね」
「…俺が手を出しても平気だったのか?」
「あなたって酔うと面白いから、どこまで楽しませてくれるか試してみただけよ。私が敬虔な信徒ではない事くらい知っているでしょう?」
先ほどエンジェルズシェアで、酔いが回ったガイアが与太話に乗ってしまったのである。
『ソッチの方は随分ご無沙汰なんだ』
酔いの回ったガイアを部屋まで送り、ついでにベッドに押し倒してみた。
動機は『もし彼が溜め込んでいたのなら相手をしてやっても良い』というものだ。
ロサリアはガイアの事を友人としては大切に思っていた。
なおかつ、互いに恋愛感情を抱いていない事はわかっていたため、後腐れなく発散させられるだろう。
酒場でのガイアの言葉を聞いた時、ディルックの旦那の視線が鋭くなったのをロサリアは見逃さなかった。
「シスターとして懺悔を聞いてあげるわ」
「随分と都合の良い信仰心だな」
「この国って最高よね」
「しかし俺に懺悔する事なんて何も無いぜ?誘惑にも負けない、こんなにも純潔な心の持ち主はそういないだろう?」
「いいえ、あなたはただ昔の男を引きずってるのよ」
「酔いが覚め始めたかしら?注いであげるわ」
ロサリアはガイアの私物の酒瓶を勝手に棚から取り出し、グラスに注いでガイアに差し出した。
「あなただけでは不公平だものね。今夜見聞きしたことは全て酒のせいにしてしまいましょう。」
ロサリアは一脚しかない椅子でベッドに座るガイアに向かい合うよう座り、グラスに注ぐこともなく瓶ごと酒を飲む。
「忘れられないんでしょう?」
ガイアはしばらく黙り込み、ようやく絞り出したような声で胸の内を吐き出した。
「………まだ好きなんだ」
「ちゃんと言えたじゃない」
友の吐露にロサリアは微笑む。
曲がりなりにもロサリアはシスターである。
彼女にも信仰についてはひとつの信念がある。
『祈りは自分自身のためにある』