他に行きたいところもないしⅧ どうやら本気で怒らせたらしい。
あんなに入り浸っていたブラッドリーが、あれ以来ぱったり訪ねてこない。すっかり二人暮らしのようになっていたのに、出て行ったきり連絡も寄越してこないのだ。お陰でベッドは広く、家は海の底のように静まり返った。
原因はちょっとした悪戯だった。その日の夜はバイト先のレストランが普段以上に混んでいて、とにかく忙しかった。忙しい上に嫌な客も多い大外れの日だ。あちこちのテーブルで聞こえるクレームの嵐。こちら側の不手際によるお叱りは一件のみで、その他は理不尽で過剰な要求ばかり。常連客が居心地悪そうに足早に退店するのが申し訳なかった。
這々の体で帰宅すると、玄関まで迎えにきたブラッドリーが「大丈夫かよ」とやや案じるように浴室まで運んでくれた。そのお陰で、どうにか入浴までは済ませることができたのだった。
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