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    アイドルをやってる東♀️のネファネ

    ※ファン♀️視点(CP要素薄め)
    ※「こうだったらいいな」を詰めました(フォロワーさんとの会話から生まれたもの有り)

    ⚠️心の広い人のみどうぞ!

    推しのお忍びデートに遭遇した話皆さんは女性アイドルグループ「EAST」をご存知だろうか。
    半年前にメジャーデビューを果たしたばかりで、すでにドームツアーが決定している。現在、最も注目度の高いアイドルといっても過言ではないと思う。ちなみにユニット名の由来は、メンバーが皆東北出身だから「EAST」だ。

    リーダーのファウストは秋田出身。
    ゆるいウェーブがかった栗色の髪、眼鏡がよく似合う端正な顔立ち。口調と対応は少しきつめだけど、本当は優しい(本人は否定しているが……)。ファンに付けられた愛称の「ファウスト様」で呼ばれるのは、あまり気分が良くないらしい。でもその気質があるので仕方ないのである。オタクは呼びたくなるものだ。

    ユニットの中で一番の年長者のネロは青森出身。
    肩より上の長さの空色の髪をしていて、すらりとスタイル抜群だ。気さくで気遣い屋な姉御肌の彼女は、「ネーさん」とファンから呼ばれることが多い。そんなネロが、年下のリーダーのファウストに甘えたりしてるとファンは大喜びだ。

    山形出身のヒースクリフは、実家が大豪邸のお嬢様。
    お嬢様と言っても、決してひけらかすことはなく、むしろ控えめで引っ込み思案だ。少しだけ世間知らずな発言をすることもあるが、メンバーとファンからは「そこがかわいい」と称賛されている。そして何といっても超絶美少女だ。無名のウェブライターに『5000年に一度の美少女』としてネット記事で紹介され、たちまち拡散されていった。実のところ、これが「EAST」がメジャーデビューするきっかけとなったのだ。

    そして、メンバー最年少のシノは宮城出身。
    黒髪で活発な印象を与える容姿はさながら、アクロバティックなダンスが得意な女の子。ファンサービスが手厚く、男女問わず黄色い声をあげてしまう。宮城出身とはいえ、幼少期に色々な事情で山形に住まいが移ったらしく、ヒースクリフと運命的に出会ったそうだ。彼女の今の夢は、ヒースクリフを世界一のトップアイドルにすること。

    ファウストとネロは20代、ヒースクリフとシノは現役高校生。
    彼女たちは個性豊かで価値観も違う。一見ユニットとして成り立たなそうなのに、互いを尊重し支え合うのが得意なようで、毎度パフォーマンスに魅了される。
    また、先ほど述べた通りデビューのきっかけはヒースクリフだったが、メンバーそれぞれが各方面に美人美少女。そんな彼女たちを世間が放っておくわけがなかったのだ。
    即ドームツアーが組まれたのも、当然のことだった。

    ちなみに私はというと、「EAST」のファンだ。地下アイドル時代からの所謂“古参オタク”というやつ。
    大学受験の勉強で疲れていた時に、アイドル好きの友人から「かわいい女の子で癒されに行こう!」とライブに誘われたのが始まり。今となっては、私の方が友人よりEASTのファン歴は長い。箱推しのファウスト様担当をやらせてもらっている。そんな私の一番の思い出は、握手会のあの出来事だ。
    その日は小さなライブハウスの後ろの方で、ファウスト様の担当カラーの紫のペンライトを振っていた。
    ライブ後の握手会。推しの前で緊張しないわけがなく、順番が近付くにつれて醜態を晒す前にいっそのこと帰ってしまいたい気持ちで一杯だった。正直自分が何を話したか記憶が曖昧だ。なんとか振り絞って「大好きです、応援してます!」と、ありきたりな言葉を発したと思う。ファウスト様は緊張する私をあやすように、ふわりと柔らかな小さい手で包み込んでくれた。「あたたかい、ファウスト様って生きてるんだ」なんてことを考えていると、聖女のような微笑みでこう返してくれたのだ。

    「知ってる。今日は後ろでライトを振ってくれていたな。いつもありがとう」

    に、認知されてる~~~~!?と叫んでしまいそうになった。しかもファウスト様の隣にいたネーさん、もといネロも「サビになるとメンバーカラー全色振ってくれてたな」と追い討ちをかけてきた。思い上がりも甚だしいかもしれない。しかし、そういうことにしておくのが、自分の人生を豊かにする秘訣だと偉い人が言っていた気がする。


    ……と、ここまでずっと私が脳内であれこれ話しているには訳がある。何故なら、気を反らしたい現実が目の前にあるからだ。

    遡ること数分前。
    イタリアンレストランでバイト中の私は、メニュー表の整理をしていた。ライブのチケット代、遠征費、自分のメンテナンス費……何かと入り用なので、学校がない日はバイトに明け暮れる日々。それも推しの為だと思うと案外楽しめる。
    お客様の来店を知らせるメロディが軽快にピロリンと流れた。メニュー表を1部抱え急ぎ足で入口に向かうと、その人たちはいた。

    黒のバケットハットとダークグレーのマスク。トップスは長袖のチュールハイネックにインナーにキャミソール。ストレートパンツの裾からは控えめな高さのチャンキーヒールローファーが艶めかしく覗いている。トータル黒コーデに対して、小さめのショルダーバッグに連なる金のチェーンが煌めき、つい目で追ってしまいたくなる。
    そんなスタイリッシュな女性の後ろには、顔を覆う大きめのサングラスを掛けた人。彼女もまた全身を黒でまとめており、ロング丈のマーメイドワンピースがふわりと揺れる。足元はショートブーツで甘すぎない印象におさえられている。涼しげな生地をした淡い水色のストールを羽織る姿は、まるで天女のようだ。片手にはオフホワイトのハンドバッグが可愛らしく握られ、もう一方はバケットハットの女性の腕にまわされていた。私が近付くと同時に離れてしまったが。
    そんなお客様たちに見惚れていると、帽子とマスクの隙間から蜂蜜色の瞳と目が合う。彼女は私のよく知った声で「11時半に予約をしていたター…じゃなくて、ラウィーニアです」と告げるのだった。

    まず、一目見て彼女たちが誰だかはすぐに判った。しかし、今日の予約者一覧にあった「ラウィーニア様」が本人たちだとは夢にも思わなかった。まさかネロとファウスト様が私のバイト先に来るなんて。
    嬉しいけど勘弁してほしい。私は一線を越えないファンでいたいのだ。メジャーデビューが決まった時、遠い存在になってしまったなぁと思ったことも事実だ。しかしこれはあまりに近すぎる。こんな接近イベントは望んでいない。
    担当テーブルを代わってほしいと先輩に頼んだら、理由を求められた。恐らくお忍びで来ている彼女たちのこと明かすわけにもいかず、「やっぱり何でもないです」と引き下がるしかなかった。

    そんなこんなで、もはや『彼女たちのプライベートの邪魔はしない!彼女たちは私が守る!』という謎の強い意思が芽生えはじめている。
    「ファウストは何にするか決まった?」
    「うん。これにしようかな」
    「あー、たしかにそれも美味しそうだなあ」
    「ふふ、少しいる?」
    「いいの?じゃああたしのと半分こしよ」
    なんて会話が聞こえている今も、冷静でいられる。……たぶん。
    オーダーに呼ばれた私は、万が一にもファンだとバレないように気を付けなくてはならない。自分でもよくわからないが変装するが如く、普段はしていない眼鏡を掛けた。そして、突如推しの可愛いを浴びてしまって変な顔になっても隠せるよう、マスクも装着済みだ。まるで不審者の装いになってしまったがご了承願いたいところだ。

    メニューを読み上げるのはネロが担当らしい。受け取ったオーダーを控えていると、「ありがとう」と小さな声でファウスト様がネロに向かって言っているのが聞こえた。そんな彼女たちのやり取りにもキュンとしつつも、仕事はきっちりとこなさなくてはならない。食後のドリンクがふたりともカフェラテなのだが、うちではカフェラテにはラテアートを施すサービスを行っている。決まった絵柄の5種類から選んでいただく形式なのを一通り説明すると、そわそわした様子のファウスト様が視界の端に映った。

    「私は………………猫で」

    わかってました。何なら先走ってもう手元のオーダー表に書いてました。ファウスト様が無類の猫好きなのはファンなら当然知っている。予想を裏切らない回答に、心の中で合掌した。
    おそらくネロも同じことを思っていたのだろう。声に出さずとも、へにゃりと緩みきった笑顔でファウスト様を見ていた。その視線に気が付いたファウスト様は照れ隠しの一環で「ほら、きみはどうするの」と、ネロにメニュー表を押し付け催促をしていた。
    可愛らしいじゃれ合いを目の前で浴びた私は、人間の形を保てていただけ奇跡かもしれない。「じゃあ、うさぎにしようかな」とネロが言ったのに対して、私は精一杯の「かしこまりました」を振り絞った。


    ***


    全ての料理を提供し終えた私は、疲弊しきっていた。
    メインメニューを運んだ際に、ふたりとも水の入ったコップをスッと端に寄せたりとか、食べ終わったあとのカラトリーの位置が綺麗に揃えられていたりとか、些細なことが“ファウスト様とネロらしい”行動だった。
    また、猫とうさぎのラテアートを見た反応なんてすごかった。
    「「か、かわいい……!」」
    と、目を輝かせながら口を揃えて甘やかな声を出していた。可愛いもの好きと公言はしていないけれど、彼女たちは小さくてふわふわした生き物が好きなのは隠しきれていない。それを知っているので、この反応はある程度予測はできた。しかし、こんな間近で緩みきっている彼女たちはやはりプライベートの姿ならではだと思う。
    「ネロもこういうのできる?」
    「うーん……ファウストがやってほしいなら練習しようかな」
    「たとえ失敗しても見せてね」
    「えっ、やだよ!」
    「ネロが作るものは全部可愛いから写真に収めてアルバムにしたい」
    「勘弁して……」
    「ふふ、楽しみ」
    「……いじわる」
    こんなやり取りも聞いてしまった。隣のテーブルを片付けていただけなのに。可愛いのは貴女方ですよ、と口には出さず咳払いだけで済ませた自分を褒めていただきたい。
    ……と、まあ、このような形で可愛い推したちのイチャイチャを不可抗力で摂取してしまったせいで、萌え疲れを起こしているというわけである。

    しかし、それももう終わり。テーブルで会計を済ませ、あとはお見送りをするのみとなった。
    外していた帽子やサングラスを再び装着したふたりは、来店時と変わらぬ美しくも格好いい姿へと戻る。
    これからも応援しております。次は私が客として、輝かしいアイドルの貴女方へ会いにライブへ参戦いたします。
    そんな意を込めて「ありがとうございました」と、目を閉じ深々とお辞儀をした。遠ざかるはずの足音が何故か聞こえない。不思議に思っていると、ほんのりお香混じりのフローラルな香りが鼻腔をくすぐり、頭上から優しい声が降ってきた。

    「今日はきみのお陰でゆっくり楽しめたよ。次はドームで会おう」


    やっとの思いで顔を上げた時には、遠くの方で手を繋ぐファウスト様とネロがレンガ通りの角を曲がるところだった。
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