「なぁ、ヴォックスってずっと昔日本にいたんだろ、生で見る日本の桜ってやっぱり綺麗なの?」
「そうだな。春になると少しずつ小さな花が開いていって、何百年、何千年と生きているものは特にえも言われぬ美しさがあって、畏怖さえ感じたもんだ」
先程まで上を向いてスマートフォンを何と無しにいじっていたのを放ってごろん、と体をこちらへ向けて、まだほんのりと赤く染まった頬と少し蕩けた口元で突然そんなことを聞いてきた。そんなまたどうして、と聞くと、どうやらSNSを見ていたところで花見やら何処かの神社で大切にされているという大きな桜の木の写真を見たからだという。確かに彼も日本へ何度か足を運んだことはあれど、あれはまだ春には遠い頃だったからな、などと考えていた。
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