あいじょうオムレツ「メタナイト!おかえりなさーい」
家に帰るなり、フリルのついた可愛らしいエプロンを着たカービィが出迎えてくれたので、メタナイトは仮面の奥で笑顔になった。
「ただいま…………ん?」
しかし今まで体験したことないような恐ろしい匂いがキッチンから漂ってくるのを感じ、カービィの頭を撫でかけた手をとめた。
「カービィ……君、まさか……」
「あ、分かった?今日はね!久しぶりにご飯作ったんだー!」
カービィは満面の笑みで元気良く答えた。
メタナイトは、カービィのエプロン姿を見てのんきに喜んでいた先ほどの自分を殴りたくなった。
カービィの料理の腕は凄まじいのだ。
相性を考えずに好きな食べ物を片っ端から入れる。調味料は目分量。もちろん味見はしないので、毎回とんでもない代物が出来上がる。
普段はメタナイトが食事を作っているので、カービィの料理が振る舞われるのは年に数回。
自分のため作ってくれていることが嬉しくてついつい食べてしまうのだが、何度気絶しかけたことか。
「じゃーん!今日はカービィ特製スペシャルオムレツだよっ!温かいうちに召し上がれ!!」
そう言ってテーブルの上に出されたオムレツは何故か鮮やかな緑色だった。
ほうれん草か何かだと思いたいが、たぶん違うだろう。
「カービィ……一応聞くが、何が入っているんだ?」
「えーっとね、にんじんとじゃがいもとお肉と、納豆とギョウザとゴーヤとホイップクリームとイチゴジャムと抹茶プリンとマシュマロとメロンソーダにスルメにぬか漬けにチョコレートと………あとは、えーと」
カービィは頑張って思い出しながら答えた。メタナイトはそれを聞きながら自分の身体から血の気が引いていくのを感じていた。
「あ、ありがとう……よく分かったよ………」
メタナイトはそう力無く言うと、フォークでオムレツをひとすくいし、恐る恐る口に運ぼうとする。
しかし恐怖のせいか無意識に手が止まってしまう。せめて中身を聞かない方が良かったと思ったが、もう遅い。
「どうしたの?メタナイト。食べないの?」
メタナイトの異変に気づいたのかカービィは不思議そうに尋ねた。
「いや、これは……その……」
今回ばかりはさすがに無理だと正直に話そうか。
しかしカービィのせっかくの気持ちを無下にしたくない。
メタナイトが心の中でそう葛藤していると、カービィは急にぱっと閃いたような顔をした。
「そっか、メタナイト疲れてるんだね!今日はいつもより帰ってくるの遅かったし……そうだ!ぼくが代わりに食べさせてあげるよ!それなら楽ちんでしょ?ほら、あーんして」
カービィはそう言ってフォークをメタナイトの手から取って持つと、口に近づけてきた。
テーブルと椅子の位置が少し高いため、背伸びをしながら溢れんばかりの笑顔でこちらを上目遣いに見つめてくる。フリルのエプロンが本当に良く似合っていていた。
「…………っ!!!」
大好きなカービィの可愛いらしい仕草にメタナイトはすっかり心奪われてしまう。
「い、いただきます………っ」
思いきって覚悟を決めると一気にフォークにかぶりついた。
しかし次の瞬間、ばたりと音を立てて、メタナイトはテーブルに突っ伏してしまった。
「わ!メタナイト?!急にどうしたの??……あ、もしかして気絶するくらいおいしかったってこと?うわぁー嬉しいなー!これからもたまにだけど頑張ってお料理するね!」
倒れた理由を知らないカービィは、そう嬉しそうに笑うとメタナイトに抱きついた。
数ヶ月後、さらにパワーアップ(?)したカービィの料理をメタナイトが味わうことになるのはまた別のお話。
end.