毒の小瓶 何も覚えていない。
気が付くと、という表現は、どこを「気が付く」の発端としているのだろう。視界が開けたら? 意識が戻ったら? 呼吸を感じたら?
今、僕にとっては、どれも違う。ただただ、は、と目を覚ましたら、真っ白な部屋にいた。
痛みもない。見たところ怪我もしていないし、縛られたり繋がれたりしていない。自由だ。思うままに身体を動かせる。なのに、どこかから重たい視線を感じる。身体中をがんじがらめにするような、息苦しい「なにか」。
ここはどこなんだろう? 僕はあたりを見渡してみた。床も壁も真っ白で境目がない。何歩歩いても、手をどこに伸ばしても、行き止まりに辿り着かなかった。このままじゃ酸欠で死んでしまうんじゃないかという圧迫感のなか、一つの机が視界に入った。薄茶色の、オーク材の、ありふれた机。華奢な脚が四本、僕の腰の高さで天板を支えている。
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