世俗の戯言に心を乱す仙人の話「私がいた世界でね、‘キスの日’と呼ばれる日があって。映画……って言ってもわからないか。恋人役として共演していた役者の二人が、世界で初めて芝居でキスシーンを演じた日なんだ」
――それが今日なの。
色めき立つ女共の声に辟易しながら、どうしたものかと天を仰ぐ。
救国の功労者ともあろう者が数人の小娘共に混ざり、くだらない情報を共有し合い時折甲高い声を上げながら騒いでいる。
盗み聞きするつもりは毛頭無い。しかし千里先の呼び声をも捉えるこの耳は、見下ろす彼女らの会話を具(つぶさ)に拾い上げてしまう。
彼女らに悪気は微塵も無いだろうが、気を休めるにも暫くは場所を移した方が良いのではという考えが脳裏にチラつく。
どこかに人気がなく静かに過ごせる場所は無いのだろうか。……女が集まり立ち話を始めると、とにかく長いのだ。
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