この朽木家という中にあって一護の存在は客人という括りである。
例え勝手に一室自室として用意されていても、その部屋の箪笥の中に覚えの無い自分の物だという着物や小物が幾つも用意されていたとしても家主に許可なく上がりこんでいても家人でも居候でも無く客人である。
それ故に朽木家の内情に関して口を出す事はしないのであるが、
「流石にこれはどうかと思うぜ」
一室に転がっていた千本桜の姿を見ながら一護はため息を吐いた。
一緒に幾つもの酒瓶が転がっている。
千本桜一人で飲んだのではなく先程まで居た灰猫や蛇尾丸ら斬魄刀達の宴会の名残らしい。
屋敷の主である白哉の帰宅と共に解散、もとい追い出されていたが千本桜は朽木家のもの故に置いて行かれたようである。
白哉が酔い潰れた千本桜をその儘放置している事に一護は少し驚いたが己の斬魄刀が潰れているのを使用人にも見せたく無いのだろう。
勿論、白哉が世話をする訳も無い。
見付けてしまえば放っておくのも気が引けて、一護は千本桜の傍に座って肩口をゆさゆさと揺さぶった。
「千本桜!おきろー!」
だが余程深酒をしたのか千本桜は身動ぎ一つしない。
こうなると一護も意固地になって揺さぶる位では温いとばかりに次はぺちぺちと軽く叩き出す。
「おーきーろー!」
何回か叩いた一護の苦労が功を奏したのか先程までぴくりとも動かなかった千本桜が「ぐ……」と呻く。
起きるかと手を止めた瞬間、ぐい、と腕を掴まれて引っ張られた。
男に覆いかぶさるような状態で吐息が掛かる程近くなった顔に驚いている内に深い青の瞳が薄っすらと開く。
「……くろさき、いちご?」
何時もより低い千本桜の声に一護は少し驚いて肩を跳ねさせる。
何だか、どろりとした甘さも含まれている気がして。
きっと酒焼けで掠れている所為だと一護は頭を振って思考を追い出した。
千本桜、と無意識に男の名を零した唇を唐突に唇で塞がれた。
一瞬何をされたか分からずに固まった一護であったが、唇をぬるりとした舌で舐められた時に漸く正気に戻り、腕を突っ張って男から顔を無理矢理引きはがす。
「ぷ、ぁ!な、ぁ……!?」
男からされた行為に怒鳴ろうとしたがその前に先程腕を掴んでいた千本桜の手が一護の後ろ頭を掴み強い力で引き寄せ再び一護と唇を合わせる。
一護が怒鳴りかけていたタイミングだった所為で中途半端に空いていた唇から舌が侵入し、ぐちぐちと中を蹂躙する。
縮こまった舌に千本桜の舌が絡み一護は混乱の中から快楽を拾ってしまいぞくりと背を震わせた。
「待て、ほんと……ま、ァ!」
最初に名前を呼ばれたのだから誰かと間違えている訳ではない。
ならば千本桜が本来どう思っているかは分からないにせよ、口付けても良い相手と思っている、のかもしれない。
頭が働かないのは千本桜の酒を含んだ唾液の所為だと思いながらこの恥ずかしいやら気持ちが良いやらで混乱する頭の儘意識を手放したのであった。