特別何かがあったわけじゃない。
朝、寝坊した。出社に間に合わないとかではないけど。
書類の記載ミスを指摘された。大事ではないけど普段ならこんなミスしないのに。
突然の外回りが入った。柔軟剤かフレグランスか知らないが頭が痛くなるほどの香りを撒き散らす苦手な女性が居る。
兎に角。
小さなマイナスが積もった日だった。
「けんまけんまけんまけんまけんま」
呪文のように頭の中で繰り返しながらもはや走って家路を急ぐ。
スーツにスニーカーの高身長な男が走り去るのを幾人もの人が振り返る。
「けんまけんまけんまけんまけんま」
玄関の扉を引くとすんなり開いた。
普段なら施錠していない無用心を叱るところだが今日は手間が省けたと喜んだ。
中に入りしっかり施錠して帰宅の声を投げた。
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