まだなんともない頃のお話ひとつ傘を挟んで右と左。狭い場所を分けあう様に肩を並べて、二宮と影浦はゆっくりと歩いていた。
デートをしているわけでも、雨の景観を楽しんでいるわけでもない。むしろ影浦としては早く帰りたい気持ちが先行しているくらいだが、何分、傘の持ち主である二宮がマイペースに歩くものだから、両人とも自然と穏やかなペースで歩を進めるにとどまっていた。
ゆるりと冬の気配が漂いだした時分。身一つでボーダー本部に赴いた影浦はその帰り際、不運にも雨に見舞われた。悪いことは重なるとはよく言ったもので、影浦はこの日すでにいくつかの不運に遭遇していた。朝から防衛任務、昼にはランク戦で、日暮れから始まった隊長会議は長引いた。帰ろうと自宅方面の地下通路に向かえばメンテナンスのために通行止め。さんざんな日だと肩を落としたのはほんの少し前のことである。その後、仕方なしと向かった一番近い通路から地上に出て濡れ鼠覚悟で帰ろうとした影浦を引き留め傘に入れたのが、他でもない二宮だった。
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