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    Shioco_gi

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    Shioco_gi

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    ニノカゲ未満

    ニノ(→)カゲ

    カゲにとってはただの気にくわない男。ニノにとっては噛みついてくる子猫みたいでかわいいし雨の日に道端で捨てられてたら傘を置いて帰りたくなるような存在。だとは思ってない。

    久しぶりに書いたら訳が分からなくなったけど、もったいない精神で供養アップ。
    いつかちゃんとカゲ視点で書き直します。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    まだなんともない頃のお話ひとつ傘を挟んで右と左。狭い場所を分けあう様に肩を並べて、二宮と影浦はゆっくりと歩いていた。
    デートをしているわけでも、雨の景観を楽しんでいるわけでもない。むしろ影浦としては早く帰りたい気持ちが先行しているくらいだが、何分、傘の持ち主である二宮がマイペースに歩くものだから、両人とも自然と穏やかなペースで歩を進めるにとどまっていた。

    ゆるりと冬の気配が漂いだした時分。身一つでボーダー本部に赴いた影浦はその帰り際、不運にも雨に見舞われた。悪いことは重なるとはよく言ったもので、影浦はこの日すでにいくつかの不運に遭遇していた。朝から防衛任務、昼にはランク戦で、日暮れから始まった隊長会議は長引いた。帰ろうと自宅方面の地下通路に向かえばメンテナンスのために通行止め。さんざんな日だと肩を落としたのはほんの少し前のことである。その後、仕方なしと向かった一番近い通路から地上に出て濡れ鼠覚悟で帰ろうとした影浦を引き留め傘に入れたのが、他でもない二宮だった。

    二人の間にこれといった会話はなく、静かな時間が続く。元々仲の良い関係とは言えず、むしろ影浦に至っては相手を「気にくわない」部類に入れているくらいだった。二宮は、さてどうだろうか。好ましく思っているであろう人間といるときにすら仏頂面でいるものだから、その感情を押して図ることのできる人間は、かつての上官くらいだろう。二人の共通点といえば精々、同じ階級の隊長である程度で、しかしそれすらも接点とは言い難く、個人間であればまだしも隊同士の交流も殆どない。二人の仲を良好と表現するには難しく、かといって不良と表現するほどの繋がりもなかった。
    歩く以外にやることがない。会話がなければこれといって考えることもない。手持無沙汰な状態で歩を進めていた影浦の脳裏にふと、過去の記憶が蘇った。

    今日と同じように数年前のあの日も、雨が降っていた。
    影浦は自分が幸運に恵まれたことを知っている。家も両親も友人も全て無事だった。同級生は少しだけ減っていたが、元々クラスに馴染んでいないこともあってダメージは少なかった。それでも、あの日に見た空は今でも目に焼き付いている。晴れていたはずの空を鉛色の雲が遮り、かと思えばぽっかりと黒い穴が開いた、空。稲妻を伴い現れた白い怪物が足を動かす度に大地は揺れ、周囲の建物ごと小さな身体はかたかたと震えた。赤い火の手があちらこちらで上がるまでそう時間はかからなかった。遠くからでも視認できた惨状はまるで世界の終わりが始まったかのような光景だった。それからボーダーと名乗る人々が現れ終息するまで、黒ずんだ雲が三門市に覆いかぶさっていた。
    全てが終わった頃、三門市を包んだのは、雨だった。傷の痛みに呻く者、壊れた家に嘆く者、家族の死に絶望する者。不平等と理不尽に襲われた三門市民の上に、雨は等しく降り注いだ。

    雨を見れば常に思い出す、というわけではない。それでも、雨に濡れる三門市を見れば時折、そんな風に思い起こしてしまうことがある。
    あるいは、隣に立つ男もまた影浦と同じ記憶に思いを馳せていたのかもしれない。
    ここに至るまでほとんど機能することのなかったサイドエフェクトが影浦にチクリとわずかな痛みを運んできた。おそらくは直接自身に向けられた感情ではないのだろうが、至近距離であることと三門市全体に向けられた感情ゆえに作用したのだろう。
    ――こいつも感傷に浸ることがあるんだな。
    影浦は静思し、そのままそ知らぬふりをした。

    「俺、こっちだから」
    並び歩くこと、十数分。ようやく見知った大通りに出た影浦は、二宮が足を向けた道とは逆の方角を指さした。知らない道ということもあり大人しく二宮の進むままに任せていた影浦だったが、知った道とあればこのままというわけにはいかない。このままついて行ったところでその先に自宅はないのだから。
    「じゃ、ありがとな」
    影浦はぶっきらぼうながらも礼を述べ、気休めばかりの傘にしようと上着に手をかけた。その最中にちくちくと刺さった感情は、やはり二宮らしく明確に捉えることはできなかったが、わずかに何かを思案しているような気配を孕んでいた。とはいえ影浦とて、決して優しいわけではない。言わないのであれば気付かないふりをすることだってある。こと二宮においては面倒なことになる前にさっさと別れるに限ると、影浦の直感は訴えていた。
    脱ぎ終えた上着を頭上に掲げ、傘の外へ一歩を踏み出す。
    「まて」
    二宮が声をあげたのは、そんな時だった。
    「んだよ」
    あげたままの腕はそのままに、背後を振り返り己を引き留めた人物を見上げる。面倒なことになりそうだとわかっていながらも足を止めたのは、影浦なりに恩を感じているが故だった。とはいえ、つまらないことでも言うのであればそれを聞く義理はない。その時は今度こそ走り出してやる。二宮の言葉を待った影浦のわずかばかりの気遣いは、次の一言であっさりと打ち砕かれた。
    「俺の家のほうが近い」
    「……」
    ――この瞬間、この男の言いたいことを理解できた人間はこの世にどれだけいるだろう。
    影浦は自身しか聞いていない言葉を咀嚼しかねた上の現実逃避として、そんなことを考えた。刺さる感情は概ね先刻と変わっておらず、しかし、見え隠れしていた思案するような感情は消え去り、「言ってやったぞ」と若干の清々しさすら垣間みえた。過去一の不可解さに二宮の表情をよくよく窺うも、当の本人は顔色一つ変えた様子はなかった。
    「……」
    「……」
    ――せめてわずかでも表情を変えればこちらも理解しやすくなるのに。
    たまらずわいた小言を心中に留め、見つめあうこと数十秒。
    先にしびれを切らしたのは、影浦だった。湿度で元気を失いつつある頭をひと掻きして息を吐き、一向に続く言葉を口にする気配がない二宮に向かって口を開いた。
    「で?」
    オマエの言わんとすることは何か。言いたいことがあるならば自分で言え。
    ストレートに問いただすのは影浦にとって面白くない。かといって、無視して帰るのも後々が面倒なことになりそうだと、日頃の付き合いを見ていれば理解できた。後日、衆人環視の元で「どうして帰った」と言及されることだけは避けたい。影浦は言外に続きを促すことで、男の真意を探ろうとした。
    影浦はただ会話を試みようとしただけだった。だから――
    「濡れると風邪をひく。このままうちに来い。」
    そう言って二宮は立ち尽くす影浦の腕を掴んだまま歩き出すことは、影浦にとって想定外でしかなかった。
    「は、あ……っ!? おい!」
    突然の事態に影浦は引っ張られたままの腕を引き寄せ抵抗を試みるが、体格の差かあるいは握力の問題かその抵抗は実らない。
    「は、な、せっ!」
    ぐっと足を踏ん張りその場に立ち止まろうとするも、濡れた歩道は不幸にも二宮の味方をする。暫くはあの手この手で自宅への道を辿ろうとした影浦だったが、次第に抵抗する力も弱まり、数分もすれば抵抗する意思も殆ど消失していた。
    「んでそんなに意固地なんだよ」
    「どうして大人しくついてこない」
    「どうして大人しくついていかなきゃなんねぇんだ」
    「俺の家のほうが近いからだと言ってんだろ」
    「なんでそれが理由になると思ってんだよ、おめぇは。俺は自分の家に帰りたいんだ」
    掴まれた腕はそのままに、半ば呆れた声で影浦は訴える。足を止めた俺がばかだった、と後悔するが時すでに遅し。腕をつかむ二宮の力は強く、加えて降り続く雨と全身を取り巻く冷気に体力を奪われ振りほどくほどの力が残っていないことを影浦自身自覚していた。
    「……疲れてるんだろう」
    「は?」
    ぴたり。二宮の言葉に、影浦は再び動きを止めた。
    「どうして……」
    分かった、とは言わない。影浦のプライドが目の前の男に弱っている自分を曝け出すことを拒んだ。
    「見ていれば分かる」
    すまし顔に変わりがないように見えて、その中に「容易なことだ」と言わんばかりの色が混ざって見えるのは気のせいだろうか。意外性を感じながらもそういえばこれでもこの男はいち部隊の隊長で自身よりも年長者なのだと思い出せば、影浦の疲れた脳が納得してしまうまでそうかからなかった。弱みを見せるつもりはないが、甘えないとはいっていない。
    「ちっ」
    それでもどこか面白くはなくて、影浦は舌打ちをひとつ零した。
    ――どうしてこうなった。
    考えるも、ほとんどの原因は隣の男の不可解すぎる言動によるものだし、自分に非があるとすれば地下通路で出くわした二宮の「入るか」という言葉に乗ったくらいだろう。あの瞬間にこうなることが確定したのであれば、過去に戻ってその時の自分を殴って雨空の下に蹴飛ばしたいものである。
    「はあ……」
    影浦の盛大な溜息に二宮がちらりと意識を向けるが、それでも言葉を発するには至らない。分かれ道前と同じく、傘の中にはただ無言の時と雨の音だけが流れていた。

    キィィ……バタン
    背中で扉の閉まる音がした。
    そこら中から漂う馴染みのない匂いに包まれて、後戻りできないところまで来てしまったと観念し、影浦はようやく腹を括った。
    あがれと促す二宮に従い、靴を脱ぎ隅へ寄せる。靴棚に置かれたアロマディフューザーが少し意外で暫く見つめていたら廊下の先から「加古が誕生日に持ってきやがった」と声が飛んできた。なるほどと納得する半面で、不承不承な感情が刺さるものだから、どんな貰い物でも案外大切にする人間なのだと、やはり意外な一面を垣間見た気がしてほんの少しだけ面白くなった。
    三門市出身ながら大学が遠いという理由で独り暮らしをしている二宮の部屋はさほど広くなく、六畳のワンルームで暮らしていた。
    「もっと広いかと思った」
    部屋を見渡しながら素直にそう零せば、
    「本部に入り浸るのが目に見えてたし、そもそも誰も呼ぶつもりがなかったからな」
    なんて、思いがけず答えが返ってくる。
    「ならどうして俺に声かけた」
    「……」
    影浦の問いに二宮は何も言わなかった。影浦を流し見るように視線を送り、二宮はそのまま言葉なくハンガーラックに手を伸ばした。
    ――……?
    一瞬。ほんの一瞬。向けられた視線の中にこれまでに感じたことのない感情が混ざっていた。それは初めて向けられる感情で、表現しようにも言語化する術が影浦にはなかった。
    影浦はわずかな間だけ胸の内にわいた靄に首をかしげるも、このまま考え続けたところで詮無いことと判断し思考を手放す。深く考えすぎないところが影浦の長所だった。
    並んで歩くうちに再び羽織っていた上着を脱ぎ、ハンガーを片手に待つ二宮に手渡す。几帳面そうな性格はイメージ通りのようで、かけられた上着は型を整えられたうえでボタンまで丁寧にとめられた。
    「濡れただろう。風呂は廊下に出て右手側だ」
    手持無沙汰に立ち部屋を見ていた影浦に声がかけられる。
    「オマエの家だろ。先に入れよ」
    「ここで風邪をひかれると迷惑だ」
    くい、と目で廊下を指し二宮は影浦を促した。
    ――こいつの言葉足らずはどうにかならないのか。
    肩を落として、頭を搔いて、唸って。影浦はしばし、独り芝居よろしく百面相を繰り広げた。
    不器用な男だとは思っていた。人間味が薄く友人も少なそうだが、決して無情な人間でないことも分かっていた。けれどもこうして決して仲の良くない自分が家に誘われた理由も、家主である本人よりも優先される理由も、影浦にとって不可解で仕方がなかった。それになにより。
    ――どうしてコイツは俺を心配するんだ。
    影浦はゆらりと顔を上げ、胡乱気な視線を向けてくる二宮を睨みつけた。目は口程に物を言うが、それ以上に影浦に刺さる感情はまっすぐにその人間の意志を伝えてくる。
    いま二宮から刺さる感情には、影浦の身を案じる意思が明確に宿っていた。
    ――意味が分からない。
    二宮の言動と感情が理解できない。考えてもわからないものは分からないし、何より疲れた身体がこれ以上の思考を拒否していた。そういったとき、影浦の取る手はひとつだ。
    「おめーが先に入れ!」
    思考を放棄し、自棄になって叫ぶ。それに限った。

    そこから繰り広げられたのは、何も生まない、茶番ともいえる押し問答だった。
    「お前が先に入れ」
    「うっせー! オマエが先だ!」
    「どうして言うことを聞かない」
    「がー! じゃあもう俺は入らねえ」
    「はあ!? てめぇ……」
    近所迷惑になりかねない声量で言い争うこと数回。最後は床に座り込み全ての言葉を無視した影浦が勝利を収めた。本日初めての白星である。
    呆れ返りながら浴槽へ向かう二宮の背にしっしと追い払う仕草をみせて、影浦は手近にあった座椅子を引き寄せた。その上に胡坐をかいて膝に頬杖をつく。そのまま視線を上げれば、二着の外套が目に入った。
    「あの野郎、いったい何考えてやがる……」
    それは少し前に壁に掛けられた、二宮のコートと影浦が着ていた上着だった。色変わりのない自身の上着と、それと並べぶようにかけられた二宮のコートは、右肩部分がぐっしょりと濡れていた。
    思い起こせばここに来るまで一度も雨に打たれなかった。それはつまり傘の持ち手がそうなる様に傾けていたのだ、と影浦の頭が正しく答えを導き出す。
    「……だああああ!! くそっ、わけがわかんねぇ!!」
    率直にいって、キャパオーバー。
    理解の範疇を越えた感情で刺す二宮に対して言いたいことは山ほどあったが、今はそれを考えることすら億劫でならない。思いのままに叫んだ影浦はそのままの勢いでひとつ大きく伸びをし、ベッドにもたれかかる。考えすぎた頭もだが、身体がこれ以上言うことを聞きそうになかった。

    本部から出てからこっちの出来事はまるっとまとめて「今日あった一連の不運」にしてしまおう。

    明日のことは明日に任せるように、影浦はそのまま意識を手放した。
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    Shioco_gi

    MOURNINGニノカゲ未満

    ニノ(→)カゲ

    カゲにとってはただの気にくわない男。ニノにとっては噛みついてくる子猫みたいでかわいいし雨の日に道端で捨てられてたら傘を置いて帰りたくなるような存在。だとは思ってない。

    久しぶりに書いたら訳が分からなくなったけど、もったいない精神で供養アップ。
    いつかちゃんとカゲ視点で書き直します。

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    まだなんともない頃のお話ひとつ傘を挟んで右と左。狭い場所を分けあう様に肩を並べて、二宮と影浦はゆっくりと歩いていた。
    デートをしているわけでも、雨の景観を楽しんでいるわけでもない。むしろ影浦としては早く帰りたい気持ちが先行しているくらいだが、何分、傘の持ち主である二宮がマイペースに歩くものだから、両人とも自然と穏やかなペースで歩を進めるにとどまっていた。

    ゆるりと冬の気配が漂いだした時分。身一つでボーダー本部に赴いた影浦はその帰り際、不運にも雨に見舞われた。悪いことは重なるとはよく言ったもので、影浦はこの日すでにいくつかの不運に遭遇していた。朝から防衛任務、昼にはランク戦で、日暮れから始まった隊長会議は長引いた。帰ろうと自宅方面の地下通路に向かえばメンテナンスのために通行止め。さんざんな日だと肩を落としたのはほんの少し前のことである。その後、仕方なしと向かった一番近い通路から地上に出て濡れ鼠覚悟で帰ろうとした影浦を引き留め傘に入れたのが、他でもない二宮だった。
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