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    なつしろ

    正気の沙汰じゃねぇ人です( ᐛ )

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    なつしろ

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    年末にあげた年越し蕎麦を食べる話を加筆修正したものです。

    年越し蕎麦を食べる話。「…ということで、今からお蕎麦を茹でます!」



    ──

    初めて5人で過ごす年越しを「どう過ごすのがいいんだろう」と言い出したのは誰であったか。
    5人それぞれが──ヴォックスとミスタは同じUKだが──違う国や文化で育ってきているため年越しにだって大きな違いがある。何といってもルカが真夏のニューイヤーなのに対してアイクは氷点下2桁のニューイヤーだ。
    どの国のニューイヤーを採用するか。各々が自国の過ごし方についてプレゼンするもののこれといった決定打がない。

    「んー…じゃあ、いっそ日本式にしよっか」

    何気ない僕の一声が鶴の一声となってしまった。
    日本式に、とは言ったものの詳しいことは知らない。知っているのは"年越しそば"を食べて"初詣"に行くという事だけ。

    「日本式っていっても…日本は年越しに何するの?」
    「僕が知ってるのは、日本では年を越す前に年越しそばを食べて初詣っていう…えーと、神社?にお参りに行くってこと。でも今ここで出来るのは年越しそばだけ。ということで、今からお蕎麦を茹でます!」
    「……おそば?」
    「そ、お蕎麦。食べたことある?」

    パントリーでどこかにあるはずの乾麺の蕎麦を探す。ミスタとルカは全く馴染みがない日本式にピンと来ないのか難しい顔して二人して顔を見合わせてハテナを浮かべている。アイクとヴォックスも流石に知らないのか苦笑いで顔を見合わせて小首を傾げている。ならば僕が頑張らなくては。言い出しっぺも僕だし。言った責任はとらなくては。
    パントリーから見つけ出したお蕎麦は一袋4把。食べ慣れていない5人が食べるなら十分な量だろう。本当はネギとかかまぼこも欲しいところではあるけど、あいにくどちらもこの家にはないし、あったとしても食べられない人がいるだろうから海苔だけ乗せた至ってシンプルなやつ。

    「…よし、じゃあこの家で一番大きな鍋出して!」
    「ならばそれは俺がやろうか」
    「ありがとヴォックス。じゃあ…」
    「ねぇ!俺も何かやりたい!」
    「んははっ、じゃあルカには海苔を切ってもらおうかな」
    「お、俺も!俺も何かやりたい!」
    「ミスタは僕と一緒にお蕎麦茹でよっか」
    「僕には何かないのかな?」
    「アイクは…おつゆ作る?」
    「…簡単?」
    「…多分?」

    全員がキッチンに集まってあれやこれやと賑やかに動き回ることの何と楽しいことか!
    ヴォックスが鍋に水をなみなみと張りコンロにかける。もちろん強火。その傍らルカにはキッチンバサミを使って海苔を細く切って刻み海苔を作ってもらう。最初に僕が手本を見せてから同じように切ってもらっているけど、極力細くしたいのかルカはかなり慎重にゆっくり切っていて。それに痺れを切らしたミスタが乱入して綺麗に切られていた海苔は一気に歪になって大笑いしてしまった。きっともうミスタは蕎麦を茹でる仕事のことを忘れただろうからこっちでやるしかない。
    アイクが「ミスタ〜、ルカ〜」と諌めにかかるのを聞きながら、ヴォックスが見ている鍋の方に向かう。肩越しに見るといい感じにお湯が沸いている。蕎麦を束ねていた帯を外し、全部を一纏めにして鍋の中へ放り込む。何も言わなくてもヴォックスはパスタレードルを使ってくるくるとかき混ぜてくれていて、流石料理慣れしている人──正確には人ではなく悪魔ではあるが──は違うな、と感心してしまった。
    忘れないうちにiPhoneで袋にかいてある時間でタイマーをかけて、急いで汁の準備をしなくては。
    アイクがヴォックスの隣に鍋を持ってきてコンロに置き僕の顔を見て、さながら指示を仰ぐように笑う。奥ではまだルカとミスタがやいのやいの言いながら海苔と格闘している。あれにはアイクも匙を投げたな、と思わず吹き出してしまったが、先に汁を作ってしまわねば。

    「みりん…ないんだよなぁ…」
    「みりん?」
    「日本の調味料。大体の蕎麦つゆのレシピにあるんだけどうちにはないから…」
    「えっ…どうするの?」
    「砂糖と酒で何とかしよう…ヴォックス!」
    「酒は…日本酒でいいのか?」
    「話が早くて助かる」

    ヴォックスが自室に日本酒を取りに行っている間に、ネットで見つけた分量の醤油と粉末の出汁をアイクと一緒に測っていく。戻ってきたヴォックスから受け取ったお酒はきっといいものなんだろうな、と思いながら測って鍋に。アイクに火をつけてもらってアルコールを飛ばしてからお砂糖、醤油、顆粒出汁、お水。入れる順番は正しいものがあるかもしれないんだけど、分量はもう測っているからいいかな、とレシピのページはさっき閉じてしまった。アルコールさえ飛んでいればきっと大丈夫…だと思う。しっかり混ぜてもらいながら煮立たせすぎないように火を入れていく。

    「うわ、超いい匂いする!」

    海苔との格闘が終わったミスタとルカがコンロまでやって来た。簡単に作ったつゆだけど、我ながらいい匂いがする。ありがとうインターネットのレシピサイト、そして僕の日本語力。
    iPhoneのタイマーがピピピ、と時間を告げるとヴォックスが鍋を持ってシンクに向かう。全員がヴォックスに道を開けてシンクのザルに蕎麦が落ちていくのを見守る。これアイクがやってたらメガネ曇るんだろうな、なんで思いながら。想像するとちょっと面白いかも。きっと怒られるから本人には絶対言えないけど。
    蕎麦はすぐに水で締めてから温かいつゆの中に戻して更に一煮立ち。少し深めの器に5等分してリビングのテーブルへ。自分の分は自分で。そこにルカとミスタが切った、細く切ったものの方が圧倒的に少なくなってしまった、いろんな形になった海苔を乗せて。

    「年越し蕎麦〜!完成〜!」

    ──

    「ところで、何で日本って蕎麦食べるの?」

    やるなら全部日本式で、と手を合わせて「いただきます」をしてから箸やフォーク──箸に挑戦したものの結局「俺お箸じゃ食べれないよ〜」と泣きついてきた2人がいた──で蕎麦を食べていると、ミスタから疑問が飛ぶ。そう言えば教えてなかったな。

    「何だっけ…蕎麦のように細く長く長生きできるように、蕎麦は切れやすいから今年の不運を切って来年は幸運になるように、とかだったかな」
    「へぇ…日本の文化は面白いね」
    「新年に食べるおせち料理も、全部に意味があるんだよ」
    「あっ待って!もうすぐ年明けるよ!!」

    説明をしていたらルカが時計を見て焦りだした。何でそんなに焦るんだろ。そう思っていたら突然やりたかったことがあるんだ、と立ち上がった。

    「年越しの瞬間ジャンプしよ!2023年の瞬間に俺達地球にいなかった、ってやつ!」
    「んは、何それ!やろうか!」
    「ほらみんな立って!カウントダウンするよ!」
    「ちょ、ちょっと待って!」

    腕を引かれながらも慌ただしく立ち上がり、テレビと一緒にカウントダウンをする。カウントダウンに気を取られていたからか、いつの間にか僕は隣にいたルカとミスタと手を繋いでいて、2人の顔を交互に見たらぶは、と笑われてしまった。お返しに握られた手を思い切りギュッと握ってやった。

    「10秒前になったらみんなでカウントダウンな……10、9、8、7、6、5、4、3 、2、1…」



    「「「「「Happy New Year!」」」」」


    時計の針が真上で重なった瞬間、1~2秒程ではあるが僕ら5人は地球から離れて新年を迎えた。


    ──

    「これで俺達は2023年に地上にいなかったことになるな!POGだね!」
    「…ヴォックスは400年生きててその経験は?」
    「さすがにないな、この年で初めてだ」
    「んはは、新しい経験が増えたね」
    「この5人でいれば、俺はいつも新鮮で最高な経験が出来るんだよ。今年もよろしくな」
    「これからも、な!」
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