書いててすけべなのか分からなくなりました10月31日の街は浮かれている。人も風景も雰囲気も。季節行事を言い訳に、普段無意識に抑えている「はしゃぎたい」という欲求を発散する者は少なくなく……少なくとも、一人はここにいた。
何年も前から似合いそうだと言われていた仮装。露出もないかっちりとしたものであるし、派手すぎない。元々犬歯は鋭くないので、やや張り切って付け歯まで買ってみた。鏡の前に立って、自分の姿を見る。本当の吸血鬼ならできない行為だが、人間なので身だしなみを整えられるのがありがたい。
「……サチコ、驚くだろうか」
期待と高揚で高鳴る胸の鼓動が心地よい。シャルルはふっと微笑んで、時計を再び見た。待ち合わせの時間までもう少し。彼女の家にこの格好で出向こうというのは、秘密のことだ。
ハロウィンパーティーしませんか、という祥子の申し出には最初驚かされたものの納得した。かこつけて沢山お菓子をもらいたいのだろう。甘いものを気兼ねなく無償でもらえるのは今日くらいだ。
菓子を詰めた鞄を手に持って、もう一度身だしなみを確認。誰も外にいないかインターホンモニターで確認してから、しっかり施錠して家を出る。足取りは軽やか。街頭に取り付けられたスピーカーから流れる音楽は、楽しげな雰囲気を促進してくれる。
しかし、心が浮き上がっていたシャルルは、普段なら忘れないであろう可能性を考慮しかねていた。
もうすぐで祥子の家につく、とウキウキで角を曲がった彼は、集団とかちあった。
「わ!吸血鬼だ!」「おにいちゃん、おかしちょうだい!」「トリックオアトリート!」
「えっ!?」
複数の仮想した児童たちに、突如群がられる。この時間は、地域でハロウィンのイベントをやっているなかで特に活性化するとき。練り歩いて強奪を行っていた無垢な連中に、抵抗も虚しく菓子を剥ぎ取られるのも時間の問題だった。そもそも、笑顔の子どもたちに菓子を与えないという選択肢はシャルルの中に無く。
喜んで嵐のように去っていった彼らを、シャルルは虚無の感情で見送ることとなった。先程まではあんなにムードを作ってくれたBGMが、今や頭を通り抜ける。この近辺にお菓子を売っているところといえばコンビニくらいしかない、余裕をもって出てきたというのに今のあれそれで待ち合わせもギリギリだ。
(素直に謝ろう)
肩を落としたシャルルは、打って変わった重い足取りで祥子の家へ辿り着いた。
インターホンを鳴らして、待つ時間がもどかしい。会えることは嬉しいのに、今は会いたくないような。
ゆっくり開いたドアを直視できずにいると、弾丸のように中から飛び出した影に腕を掴まれた。顔が見られず地面と目線を合わせ続ける。
「先輩!トリックオアトリートです!」
「あ、ああ……サチコ、その……」
「仮装気合入ってますね!でも、なんだか雰囲気がボロボロのような……?」
「すっ、すまない!ここに来るまでに、用意していた菓子をすべて渡してしまって……!」
「ええーっ!?」
勢い付けて謝罪の礼をすると、頭上から驚きの声が降ってきた。それはそうだ、あれだけ用意してきたのに一瞬で無に帰すとはシャルル自身も思っていなかった。驚くのも無理はない。
申し訳なさで胸がいっぱいになっていると、少ししたあとに平然とした祥子の言葉が発せられた。
「まあ、予想はしてましたけど」
「えっ?」
「シャルル先輩なら、そういうことあるかもなーって。大丈夫ですよ!とりあえず上がってください!」
「ありがとう……!」
予想外に寛容だった祥子の振る舞いが、シャルルには眩しい。上がって、と言われたところでようやく顔を上げ、祥子の姿をしっかりと見る。
そして、固まった。
狼の耳に、首輪。
しっぽを除けば、まるであの時のような。
「さ、サチコ、その仮装は……」
「え?狼です!がおー!」
「……狼人間か。驚いた……ああ、似合っている。かわいらしい」
「ホントですか?えへー」
動揺こそしたものの、本当に似合っている。
あの時は、あの時までは祥子のことをちゃんと見ることができなかった。見ることが怖かったからだ。
だから、今改めてかつての姿に似た様相を見られるのは、シャルルにとっても嬉しいことだった。
そんなこんなでテンションは徐々に回復して、祥子の部屋。
いつも通りの会話をして、いつも通りに相槌を打つと思っていたシャルルに、祥子は話しかける。
「さて、先輩」
「?どうしたんだ?」
「トリック、しなきゃですね!」
びくり、と体が硬直する。冷や汗。脳内を爆速で様々な可能性が現れては消える。祥子のニコニコした笑顔が一気に恐ろしくなってきた。テンションの軌道が乱気流内にいるようだ。
そういえば彼女は研究者だった。優しくこちらを尊重してくれる、とても良い子だ。でも、万が一……普段言い難いことを抱えていたら。シャルルが思い切り抱えていたのだから、祥子だって抱えていてもおかしくない。
普段恩義を感じており、現在引け目がある彼は、断ろうにも断れないだろうことが決まってしまっていた。
「えっと」
「お菓子を持ってないなら、仕方ないな〜」
「今からでも買いに行ってはダメだろうか」
「うーん、一緒に買いに行くのもいいですね!でもイタズラもしたいなあ」
「な、なんでも言ってくれ……できることなら……」
「そんな怖がらなくても良いですよ!私がやりたいのはもう決まってるので!」
祥子は机や棚から、ゴソゴソと色々取り出す。警戒していたシャルルは、出てきたものに段々何がしたいか察せられた。
一度部屋から出て、戻ってきた彼女が持っていたもので確信へと変わる。彼は金髪をきゅっと握って、やや後退する。祥子が持っているもの。手鏡とヘアブラシ。
「フフフ……」
「まさか」
「はい!見てみたいのと練習台です」
「たぶん似合わない!」
「女性っぽい顔立ちですし、大丈夫ですよ!あ、でも……その格好だと、ツインテールは合わないかな」
櫛といくつかのゴム、ピンなどを机に並べて、祥子は品定めするようにシャルルを見る。付け耳やしっぽの筈なのに、それが上機嫌に動いて見えるのは目の錯覚だろうか。きらきらした視線がまぶしい。そういえばシャルルは祥子より髪が長いのだ、普段できないヘアアレンジなども試しがいがあるのは確かで。きっといつもの実験や研究と、同じ感覚なのだろう。
日頃熱意を込めて運気について研究している様は、横から見ていて目を見張るものがあった。あれほど熱心に何かに取り組む姿勢は、尊敬すべきものがある。あるが……
(自分に向けられると、緊張してしまうな……)
シャルルは内心でこぼした。なんというか、彼女の仮装のせいだろうか。獲物を見定められているような、すべて見透かされているような。無垢な視線なのに底が知れない。
それに、祥子にじっと見つめられていると。上記したこととは別の理由でも、シャルルの鼓動は速くなる。もうしなくても構わないのに未だに瞼を閉じがちなのは、なかなか目を合わせられないのも由来していた。
そんなひとりの内なる葛藤を露知らずだろうか、祥子はメニューを決めたようだった。
「前にみつあみは見せてもらったから、ポニーテールにしましょうか!」
「っ」
前。シャルルにとって恥ずかしかったことを思い出して、息が詰まる。そういえば。ここは祥子の部屋で。咄嗟に反らした目線の先には、燕尾服を纏った自身の写真。逃げ場がない。
「まだ飾っていたのか!」
「え?ああ、はい!」
「前に外してくれと頼んで」
「先輩、何でそんなに恥ずかしがるんですか?」
「……なんで、かは……知らなくてもいいだろう」
「ふーん……?」
祥子は考える。シャルルは自分の感情が暴かれるのをとても恥ずかしく思っているようだから、詮索は好まないのかもしれない。でも、その理由はとても臆病だからと分かったばかり。祥子が嫌と思わないか、ずっと警戒しているのだ。
それでも、涙ながらに感情を吐露したあの日から、彼は素の表情や感情を見せることが増えてきた。祥子に対して少しずつ油断するようになってくれたのも事実。
漆黒がベースのかっちりとした服装は新鮮味がある。祥子を驚かせるために、これを。わざわざ家から着てやってきてくれた。お菓子は持ってこれなかったけど、きっと用意するときもたくさん考えてくれたのではないだろうか。
推測の裏付けは経験からできる。
すごくめんどくさくて、ぐるぐる考えてて、すごく優しいひと。とりあえず祥子はそれで結論づけた。
(あの部屋で、もっと色々聞いておくべきだったかも)
付け歯がなければ貴族みたい、と笑う祥子に対して、シャルルはガチガチに緊張している。しっかりと椅子に座って、祥子にゆっくり背を見せた。覚悟を決めてどもりつつも言う。
「ど、どうぞイタズラしてくれ!」
「はい!」
祥子は袖を捲くって、ヘアブラシを手に持った。見るからに力が入っている肩。ヘアブラシを通すと更に緊張する。だが梳かしていくうちに、少しずつ慣れてきたのか、力は徐々に抜けていった。
よく手入れされているのか、梳かしやすい髪は纏めるのも楽だった。祥子は日頃の慣れた手付きで、あっという間にまとめ髪をひとつ作り上げる。
その途中で、ふとある考えに至った。
(このままじゃ、あんまりイタズラって感じしないかも)
みょうちきりんな髪型にしたり、デコ盛りにするならまだしも、現状は至って普通のポニーテール。可愛らしく飾ったって、イタズラというよりコーディネートに近くなってしまう。
思い浮かんだときは、良いアイデアだと思ったのだが。祥子は首を傾けて……傾けようとして、つけたままの首輪に阻害された。そこで思い出す。
(今のワタシ、狼人間だったんでした)
ハロウィンらしい、狼人間らしいイタズラ。ここからなにかできるかな、と頭の耳を弄りながら、祥子は改めてシャルルの後頭部に向きなおる。
まだ続きがあると思っているらしいシャルルは、最初の様子とは打って変わってリラックスした様でブラシを待っているようだ。羽織っていたマントは畳んでそばへ置いてある。ふわふわとした襞襟は、来るまでの息苦しさから来たときには外されていた。
初めて見るうなじと、無防備な首筋。
(……う〜ん)
なんだか。
あの時と、同じような感じを覚えてしまう。あの時ほど苛烈な衝動ではないが、ゆっくりと増加していくような錯覚も引き連れて。思想が仮装につられているようだ。首輪にチャームはついていないのに。
以前はよく確かめられなかったし、手だけしかできなかったけれど。気になってたまらなくなってしまった。元々気になったことは積極的に調べてきたし。その対象はシャルルにまで及んでもいた。彼の本当の気持ちが何か。祥子に向けている感情とは何か。
解明するには、こちら側からも踏み出すべきかもしれないし。
(おいしそう、かも)
物は試し。
「祥子?これで終わ……」
「ぁむ」
「ひっ」
左手で髪を避けて、首筋に噛み付いてみた。あの時と同じように甘噛み。変な声が聞こえたが、今の祥子は別のことの検証が優先のため、一旦隅に置く。
思っていたよりやりづらい。頭板状筋あたりにしたのが失敗だったかもしれない。何度か甘噛みを試みるも、角度のせいで噛むというより唇を当てるような形になってしまう。
(うーん、あんまり?位置が悪いのかな。こっち側も……ちょっと服が邪魔ですね、よいしょ)
「ぇ、いっ…まって……!」
(うん、こっちの首よりやや下あたりのほうがいいかも。そういえば、創作の吸血鬼はこのあたりを噛んでいた気がします……ん?)
首筋をなぞりつつ、襟が邪魔なので手で退かしてから噛みつきなおそうとして、そういえばこっちの吸血鬼の様子はどうだろうと思い出した。
もし嫌がっていたらやめないと。シャルル先輩のことだから、もしかしたら真っ青になってるかも。
少し懸念しつつ、恐る恐る顔を上げてみる。
真っ赤があった。
「……イタズラ、って、本当は、これ……っ」
上気した顔は冷静さを失い、自分の身体を抱え込むように縮こまったシャルルは、潤んだ瞳で息を荒げている。
その姿、表情を見た祥子は推測する。
もしかして。先輩って、すごくすごく───
ワタシのことが好きだから、"こういうこと"をされるのも、すごくすごく好きだったり?服従したい、らしいし。
こういう感情をなんと言うんだったか。いじらしい?
分からないので、試しつつ聞いてみようと決めた彼女は、シャルルの後頭部に話しかける。
「せんぱい」
「さ、サチコ……」
「吸血鬼なのに、狼に噛まれて興奮しちゃうんですか?」
「……え」
ちょっとした煽りも入れてみた。今の彼は揺れている。少し突っ付けば心情を吐き出してくれそう、という考え半分、言ってみたかったの気持ち半分。
なんだか一層楽しくなってきた祥子は、シャルルで実験をし始めている。
一方そんなことが分からず、混乱の渦中に突如投げ入れられたシャルルは、自分の考えを整理しきれず口に出すしかなかった。
「きっ、きみじゃなきゃ!こんな、反応はしない……っ」
そのため、墓穴を掘った。
「ふ〜ん……?」
「あ……あれ」
口角を上げる祥子。その反応に戸惑って、自分が今言ったことを改めて反芻しているシャルル。彼の表情は呆然としたものから、恥じらいに満たされていく。祥子は、その様子を見てどんどん気分が良くなってきた。なんだろう。この気持ちは。
嫌だと思われたら絶対すぐにやめると決めていたのに。つい噛み付いてしまったことから、こんなことがわかってしまうなんて。
(他の誰も、ワタシには適わないんだ)
溢れ出す優越感が、何かの枷も外した気がする。祥子はシャルルの方へ回り込む。座っている彼は動揺の渦中で、脳内はクエスチョンマークばかりだ。
今までの経験は、シャルルの心を閉ざすには十分で、人に噛まれるなんてもってのほか、触れられることすら恐ろしかった。露出の少ない服、首周りを守る長髪。誰かに不意に、弱いところへ触れられないよう最新の注意を払ってきた。払ってきた……のに。
どうして、祥子にはすべてを許しても、気持ち悪くないのだろう。湧き上がってくる気持ちがわからない。ばくばくと鳴る心臓と、認めたくない熱い感覚。バレないように、抑え込めるように彼はぎゅっと目を閉じて耐えようとする。
その姿をそっと覗き込んで、祥子は微笑んだ。
「先輩、素直になるとそんなことを言ってくれるんですね」
「やめてくれ」
咄嗟に出た拒絶の言葉は、掠れて弱々しい。これ以上迂闊を晒さないように言葉を選ぶのが精一杯で、体裁まで気を配っていられない。真っ暗にした視界では、見えない祥子の気配しかわからない。
椅子から立ち上がれず、俯いている彼。普段の癖か今の髪型に気がついていないだけかそれとも無意識な欲望か、自ずと首を差し出しているように見える。項が所々うっすら赤らんでいるのは祥子のせいだろうか。想起させられるのは、首元に残るキスや噛まれた痕は所有されていることの示唆だとかいう話。以前読んだか聞いたかしたときは、まるで獣のマーキングのようだと思った。けれど。
「聞きたいことがあるんです」
「……なんだろうか」
「先輩、まだ言い寄られてます?知らないひとに」
「……たまに」
「う〜ん、困りますね。ワタシから取ろうとされるのは!」
シャルルの話す不運な話には、時折不運どころではない話も混じっている。彼の女難の相はとてもひどく、魅了されては勘違いする者だとか、宗教勧誘だとかサークル勧誘だとか、何かと手籠めにされそうになることは多い。彼自身とても困っていて、なんとかならないかと常に頭を悩ませていた。
そのため、祥子は"マーキング"は良い解決方法だと思ったのだ。
シャツからうっすら覗くような、それこそ彼を下衆な目で見るような者しか分からないような位置。そこに祥子はがぶりと噛み付いた。今度は甘噛みじゃなく、しっかりと痕を残すため。
「──ぅ、っ…!?」
痛みに思わず椅子から転げ落ちそうになるシャルルを後ろから抱きついて押さえる。舌先が首筋を撫ぜて、歯が離れる。唇の感触のあとに、じんわりとした痛みが響く。
痕をしっかり確認して、祥子はシャルルの肩に首を乗せた。そのまま真っ赤な耳元に話しかける。
「これでもう、ワタシのものですね」
「……バ、」
「ば?」
「ばか!も、もう……!怒るぞ!いくらサチコだからとはいえ、こんな……!」
「嫌でした?」
「っ──!」
混乱とおそらく怒りと言語化できない感情諸々に押し潰された彼は、言葉の出し方も分からずはくはくと口を開閉して、痛みと羞恥で潤んだ瞳を瞬かせる。その様子がなんだか面白くて、祥子はニコニコしながら近距離で眺める。頬が今にも触れそうなくらい近い。食いしばっていた余波か、今にも外れそうな付け歯が弱々しくて愛おしかった。
「吸血鬼なのに。噛まれちゃって、ドキドキしちゃって。情けないな〜シャルル先輩は♡」
「う、うう……っ」
「耳まで真っ赤ですよ、ふ〜っ」
「ひぁッ」
祥子はわざとらしく彼の耳に吐息を吹きかける。びくりと震えたシャルルは、もう座っているのがやっとのようで。抱え込むように押さえていた胴体が、へなへなと力を失っていく。手で顔を覆って、うつむくのが精一杯だ。
一方元気いっぱいの狼少女は、日に当たったような体たらくの吸血鬼に率直な感想を言う。
「よわいな〜」
「ばか」
「怒り方も弱いんですよね」
「しらない……もう、帰る……」
「え!まだ全然ヘアアレンジできてません!」
「じごうじとく、だ……ばかサチコ」
抜けかかっている腰をなんとかしてフニャフニャと立ち上がったシャルルは、朱一色の頬に手を当て、冷めようがないことを察して諦めて、捨て台詞のようにこう言った。
「来年は、ぜったいお菓子を持ってくる……っ!」
「またトリートしたいなあ。ヘアアレンジリベンジさせてくださいね!」
「……また今、……さよなら」
誤解を生みかねない別れの言葉のチョイスに気がついて、取り繕って言い直したシャルルは、よろよろと外へ出ていった。
祥子は未練を感じつつも手を振って見送り、曲がり角に影が消えてから思い出した。
ひとつ、彼の姿がポニーテールのままのこと。
そしてもうひとつ。
(普段の長い髪なら隠れるけど、あの髪だと隠れませんね。まいっか!)
ハロウィンは、迂闊に菓子を枯渇させてはならない。
今日という日はシャルルにとって凄まじい教訓になったが、祥子にとっては面白いことの始まりになった。
本当はとても弱い先輩の、隙の解禁。調べ尽くしたらきっととても楽しい。彼が本当は心の奥底で嬉しく思っているのも、分かっている。きっとそうなのだ。
あの揺らいだ視線が素の感情で染まるときが来るのを、祥子は楽しみにしている。
夜空に光り始めた満月が、無垢且つ怪しげな光を放っているのを、帰路を急ぐシャルルは見ている余裕もなかった。