あの時、伝えることのできなかった一言を告げる石神村で天文台をプレゼントした時、後悔した。
つい本音が溢れて、焦って千空ちゃんを誘導したけど、誤魔化せていなかった。
その後、しばらくして千空ちゃんから告白された。速攻断った。
怖かった。とにかく怖くて復興を機に逃げるように離れたのに。
20年めの春。観念した俺は彼に応える。

「ぁ？そりゃぁ、妖精のしわざっつうんだ」「あの子はきっとチェンジリングなのよ」
聞き慣れない言葉にゲンは首を傾げた。
公園によくあるママ友の輪の中で上がった話題だ。
ゲンはたまたまその近くに居てその言葉を耳が拾った。
子供の好奇心で話題の主に直接尋ねる。
白菜の王子様みたいな少年は耳を穿りながらきちんと答えてくれた。

企むのは貴様の性だろうが過ぎれば拗れるぞこの頃、千空がよくゲンを見ているのに気付いた。
私が気付いたのだから周囲の機微に聡いあの蝙蝠男が気付かぬわけはない。
だが、常ならば歪みが生じる前にメンテナンスをするはずの男が一向に動かないのだ。
不思議に思っていると、視線に気付いた奴がこちらに視線だけ寄越した。
『なるほど』

風の妖精は粋なことをするぴたりと風がやんだ。振り返る、先をゆく彼。
ゲンは顔に熱が上がるのを止められなかった。
普段なら、脈拍も心音もコントロール出来るのに。
今、この時だけはダメだった。
普通なら唸る風がかき消すはずの言葉。
伝わらないとたかを括った、その時だけ風がやんだ。
「千空ちゃんのことが好き」

ああ、こいつのこと好きだなと千空は自覚した。石神千空は七色の虹を見たことがない。
一応、一般的に虹が七色なこと、赤から青に移り変わるグラデーションなのは理解している。各々の色も認識できる。でも、七色の虹を感じたことはない。むしろ、赤と青の二色でも間違っていないだろう？
「まぁ、虹が綺麗だってことが分かればいいんじゃない？」

天使に叩き起こされたゲンの目の前に自称死神がいた。
黒服を着て青白い顔、見るからに死神然としている。
そして、とても礼儀正しかった。
名刺、貰った。彼は尋ねた。
「やり残したことは？」
ないと答えようとして躊躇する。
「キス、したかったかも…」
「そうですか」
『んなの、いくらでもしてやるわ‼︎』

取り消すことはできないけれど、忘れてくれていいからポロリ、ポロリと。
頬を伝う涙にオレの顔を見て君は驚いた顔をしてる。
そうだね。
常に一緒だった。
隣に並んで走り続けて来た。
そんなオレが、君を好きだなんて。
恋愛脳を排除してる千空ちゃんにとって青天の霹靂かな。
近付いてきた君を抱き寄せて目蓋を閉じるように促しキスをした。