Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    8ruta_vo

    @8ruta_vo

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    8ruta_vo

    ☆quiet follow

    甲斐くんお誕生日前日(?)譚
    甲斐くんはいない。いつも通りちぐまん先輩がみけかいをこじらせている。

    ##みけかい

    「甲斐の誕生日? ああ、そういえばそろそろだったな」
     いつも通り横暴な様子でふと呟いた三毛は、どうやらいつも以上に機嫌が悪いようだった。千熊は愛想笑いにほんの少しため息を混ぜながら電源の入っていないゲーム機に目線を落とした。
     今日は部活があるというのに甲斐が来ない。いつもなら三毛を迎えに行って、一緒に登場するのにひとりで部室を訪れた三毛は「あのバカ犬、俺をほっといてカレーの買い出しに向かいやがった」と吐き捨てたのだった。それだけで待ちくたびれた三毛がわざわざ一年の教室まで向かって、あの王子様スマイルで誰かに甲斐の所在を尋ねた様子が想像できたので千熊は笑い、ここぞとばかりに話題を振ったのがついさきほど。しかし三毛はお気に召さない様子で、ごろんと横になってしまった。お手製の椅子ベッド、と千熊が呼ぶそれは甲斐が持ってきたクッションが置かれている。
    「でも三毛、甲斐のお誕生日だよ。お祝いしてあげようよ」
    「んなもん本人がカレー作っておしまいだっての。毎年だ」
    「毎年?」
    「そう。甲斐の誕生日だから甲斐が好きなことだけするって言って、あいつの好きなだけカレー作って、あいつの気が済むまで俺が食ってやって。それが毎年」
    「ふぅん。食べてあげるんだね」
    「そうじゃねえとあいつが満足しねーからな」
     机の下に隠れた三毛から、とげとげしいながらも返事はある。「三毛って甲斐に甘いよね」と呟くと「ふざけんな」と返ってきた。これ以上何かを言えば本当に手がつけられなくなりそうだ。おやすみ、と声をかけて口を閉じる。
     三毛と甲斐の仲は、未だ理解しきれない。独特な信頼関係があって、そこに千熊の入り込む隙などないように感じる。それでも彼らが千熊を隣に置いてくれるのは、「入り込む隙などないとわかっている」からだろう、と千熊は思う。彼らの仲は不可侵で、入り込もうとしない限りは無害だと思われて、そばにいることを許される。そんなあいまいな立ち位置を、千熊が心地いいと感じるのは千熊に彼らほど強く執着する人がいないからか。
     安心するのだ。彼らのたがいへの感情が、千熊には向かないことに。それでいて、同じ部活のメンバーとして存在を許されることに。
     だから、甲斐の誕生日もできる限り祝ってやりたい。サプライズでも、そうでなくてもいい。とにかく甲斐の喜ぶ顔が見たい。
    「僕にもカレー、作ってくれるかなあ」
     小さな声で呟くと、三毛があまりにも小さな声で「食いきれねえくらいは作るぞ」と言う。彼が言うなら本当にそうなのだろう。片割れからのお墨付きなら間違いない。
     喜びの高ぶるままゲーム機のスイッチを入れるが、外から大きな足音が聞こえてきてすぐさま電源を落とした。
    「三毛くん、ちぐまん先輩、たっだいまー!」
    「おかえり」
    「……えり」
     案の定の声が聞こえてきて、挨拶を返す。両手いっぱいに買い物袋を抱えた甲斐に「それ、どうするの」と尋ねれば「僕の誕生日にカレーパーティするんで、その練習用に買ってきたんです!」と明るい声で帰ってくる。
    「それ、ここで作るの?」
    「作りますよー! あ、もちろんちぐまん先輩も食べますよね?」
     うん、と返事をするのに一呼吸遅れてしまったのを自分で感じながら、千熊は席を立って、甲斐のために作業スペースを空けた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    8ruta_vo

    DONE甲斐くんお誕生日前日(?)譚
    甲斐くんはいない。いつも通りちぐまん先輩がみけかいをこじらせている。
    「甲斐の誕生日? ああ、そういえばそろそろだったな」
     いつも通り横暴な様子でふと呟いた三毛は、どうやらいつも以上に機嫌が悪いようだった。千熊は愛想笑いにほんの少しため息を混ぜながら電源の入っていないゲーム機に目線を落とした。
     今日は部活があるというのに甲斐が来ない。いつもなら三毛を迎えに行って、一緒に登場するのにひとりで部室を訪れた三毛は「あのバカ犬、俺をほっといてカレーの買い出しに向かいやがった」と吐き捨てたのだった。それだけで待ちくたびれた三毛がわざわざ一年の教室まで向かって、あの王子様スマイルで誰かに甲斐の所在を尋ねた様子が想像できたので千熊は笑い、ここぞとばかりに話題を振ったのがついさきほど。しかし三毛はお気に召さない様子で、ごろんと横になってしまった。お手製の椅子ベッド、と千熊が呼ぶそれは甲斐が持ってきたクッションが置かれている。
    「でも三毛、甲斐のお誕生日だよ。お祝いしてあげようよ」
    「んなもん本人がカレー作っておしまいだっての。毎年だ」
    「毎年?」
    「そう。甲斐の誕生日だから甲斐が好きなことだけするって言って、あいつの好きなだけカレー作って、あいつの気が済むまで俺が食 1366

    recommended works