誕生日「魈……いる?」
「どうした」
旅人の一大事かと思い、魈は仙力を使ってすぐ傍へ現れた。望舒旅館の最上階。普段なら誰も踏み入ることはない場所だ。
「今日はお前の誕生日だって聞いたぞ~! だからオイラ達、魈を祝いに来たんだ~」
ところが、旅人の用事は拍子抜けするくらい些細なことだった。
「なんだ、そんなことか。我は特に誕生日だからといって別段何かがあるわけではない」
今日が自分の誕生日ということすら魈は忘れていたくらいだった。もはや何歳の誕生日なのかすら忘れかけている。他の夜叉達が存命していた頃には、誰かの誕生日に酒を酌み交わすこともあったけれど、ここ数百年余り、そのようなことをすることもなくなっていた。
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