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    0528_0212

    短文頑張って書いてます

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    0528_0212

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    わたりおss。ワードパレットお借りしました。何が書きたいのか散らかってしまった気がしないでもない
    お題:「強い香り」「壊れた傘」「雨に濡れた」

    無題 ―雨が降っている。
     ―僕は、彼女に傘を差し出した。
     雨が降っているから。それ以外の感情はない。
     ―傘、壊れちゃった。
     わざとらしく困った顔をするそのひとを見る。それは困りますね、と肩をすくめてみせた。
     人には親切にした方がいい。ただ―それだけのことだ。僕は、彼女にまだ畳まれたままの小さな傘を差し出した。どうぞ、使ってください―と。
     ―そんな、悪いよ。
     困った顔なのに、どこか嬉しそうな表情がちらつく。―寒いな、と思ったのはその時だった。雨のせいだろうか、気温が下がっている。
     ―いえ、使ってください。
     ―返してもらわなくて大丈夫なので。
     帰る場所は、さほど遠くはない。そう告げようとも思ったが、彼女に対してそこまで話す必要はないだろう。
     生ぬるい都心の雨の中に踏み出す。気休めに、頭の上にタオルを置いた。
     言葉が上手く紡げない彼女を背に、なるべく早足で歩き出す。一瞬、呼び止めるような声が聞こえたが、雨の音に紛れて聞こえないふりをした。

     「ただいま」
     「おかえり」
     重い賃貸の扉を開くと、聞き慣れたテノールが響く。どうやら彼は帰る時間を予想していたらしく、すぐに奥の扉から出てきた。手にはご丁寧に真白いタオルが握られている。―おまえ、そんなところまで天才じゃなくていいよ―素直にそう思った。
     「ほら」
     「うわ」
     そのタオルが投げて寄越される。ぺしょ、というやる気のない音を出して、頭の上へと着地した。さすが元野球球児。関係あるのかどうかは分からないけれど。投げられたタオルで適当に水気を拭いた。
     「おまえ、傘持って行ってたんじゃないのか」
     桔梗は不思議な顔をしている。傘を持って行ったはずの同居人が、雨に降られて濡れて帰ってくる。不思議極まりない話である。
     「―あ、それは」
     事の顛末を話すことにする―今日は、自分がサポートで入ったバンドのライブの打ち上げだった。夜から雨が降るという予報はもちろん、見逃していたわけではない。でも、自分では珍しく『予備の予備の…』傘は持って行っていなかった。
     「なんか、そのライブハウスのスタッフの女の人―一緒に打ち上げしてたんだけど―傘壊れたらしくて。使ってくださいって渡してきたから」
     「はあ」
     桔梗は怪訝な顔をして聞いていた。その顔のまま投げかけてきた言葉は、随分とまあ、予想外なもので。
     「それ、狙われたりしてないだろうな」
     その一言にはた、と思考が止まる。
     「―的場、香りがいつもと違うの、ついてるような気がしたから」
     彼はそう言って、顔を背けた。問われた言葉に思わず自分のパーカーの袖を鼻に寄せる。居酒屋特有の煙草の奥に、甘い香りが少しだけした。思い返してみると、彼女の席がずっと近かったような気もするし、冷房が効きすぎてるから―とかなんとか言って、擦り寄られた記憶がある。思い当たる節はあった。
     「それってもしかして―」
     嫉妬。
     彼にしては珍しい。しかし、その次の言葉を投げることは叶わない。
     「言うな」
     「―珍しいじゃん」
     「やめろ」
     恥ずかしい、と思ったのか、早々に踵を返して部屋に戻ろうとする。濡れてるんだからさっさと風呂に入れよ―という捨て台詞が、やたらと愛おしく聞こえて、急いでスニーカーを脱いだ。
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