egoistアビスにとってこの世界は決して良いものではなかっただろう。そんな彼をこの世界に引き止めてしまったことはアベルのエゴだったかもしれない。咄嗟のことではあったがあのままアビスを失いたくなかった。母を失ってから目的のために他者を傷つけることも、排除すると決めた存在の命を結果として絶つことになろうとも何も思わなかった。それでいいとすら思っていた。アビスだってそうだ。あくまで利用価値のある道具として側に置いた。それだけの存在だったのに。目の前で失われようとしている彼の命をそのままにしておけなかった。結局自分で決めた命の優劣すら破りただのアベル・ウォーカーとしての我儘だけでアビスのことを助けた。
病院で処置をされたアビスはあれからまだ目覚めない。しばらくは絶対安静だと伝えられたがそれでももう目を覚まして良い頃合いだと医者は言っていた。もう目覚めたくないのだろうか、ふと眠り続けるアビスの顔を眺めながらアベルは思った。助けてほしかったなんてアビスは思っていなかったかもしれない。マッシュが言ったようにアビスにとっては生きているのも辛いこの世界なのに。
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