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    さとみ

    さとみ/nanarico

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    さとみ

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    乾貞治くん、柳蓮二さん、お誕生日おめでとう!!誕生日関係ないですが大人の乾と柳と女の子視点のゆるっとしたお話です。分かりにくいけど柳乾です。

    わたしのすきなひと








    私にはコンヤクシャがいる。
    背がとっても高くて黒いフチの四角いメガネが世界一似合っててすごくカッコいい。笑うと花が咲いたみたいに可愛くて、いつも優しい声で私の名前を呼んでくれる。今日も園の入り口でとびっきりの笑顔を見せてくれた。

    「ミオちゃん、おはよう」
    黒いツンツン頭の大きな背をかがめて挨拶してくれるこの人が私のコンヤクシャ、乾先生だ。ウサギ組だからウサギ柄とかウサギが付いた物をよく着ている。今日は胸のところに大きなウサギの顔が付いたエプロンだ。
    「乾先生、おはようございます。今日はね、お手紙を書いてきたの」
    おばあちゃんから貰ったお気に入りの青いペンで先生の大好きなところをたくさん書いてきた。コレを読んだらもっと私のことが好きになっちゃうかも。
    「いつもありがとう。ミオちゃんは字が上手だね」
    手紙を受け取るとキラキラの笑顔で私の頭を撫でてくれる。もう朝から幸せいっぱい。でもすぐ横やりが入った。
    「乾先生、おはようございます。私、先生にワッペン作ってきたの」
    「ユリちゃん、おはよう。わぁ、先生のお顔だ。ありがとう。エプロンに付けようかな……」
    ユリちゃんも乾先生のコンヤクシャだ。先生に頭をなでなでしてもらって幸せそうに目を細めている。エプロンに付ける物を作るなんて、とっても良い考えだわ。ユリちゃんは工作が得意でいつもステキな物を作ってくる。
    私たちだけじゃない、ダンスが得意なマナちゃんはこの前も乾先生に情熱的なダンスを見せて拍手をもらっていたし、カナコちゃんはお庭で育てているお花で花束を作ってプレゼントしていた。
    乾先生はどれもすごく喜んでくれるけど、誰かが一番にはならない。私がお嫁さんになってあげるって告白した時もミオちゃんに好きな人が出来るまで未来のお婿さん役にしてねって、他の子と同じお返事だった。先生の特別になりたいけどみんな同じだからケンカにならないし、テレビで未来のお婿さんの事をコンヤクシャって言ってたからみんな乾先生が大好きなコンヤクシャ仲間なんだ。

    「ねー、ユリちゃん。私にもワッペンの作り方教えて」
    外あそびの時間ジャングルジムに挑戦していたユリちゃんに聞いてみる。不器用だから作れるか分からないけど私も乾先生のワッペンが欲しい。
    「良いよー、今日遊びに来る?」
    「行く!」
    嬉しくてすいすいと頂上まで登ると乾先生よりも高い位置からお外まで見渡せる。ふと道路に見覚えのある長い人影を見つけて、やっと登ってきたユリちゃんに耳打ちした。
    「あの人、乾先生の知り合いだよね」
    ユリちゃんは私と同じ方を見てアッと小さく声を上げた。
    「乾先生と仲が良い人だ」
    たまに園にやって来ては乾先生と親しげに話しているのを何度か見たことがあるナゾの人物だ。
    乾先生と同じくらい背が高くてシュッと目が細くて、あったかい感じはしないけど優しそうな人。今日はお父さんみたいにスーツを着ていていつもよりカチッとしている。
    私たちがどうして気になるかって、その人と話している時の乾先生が見たことないような柔らかい顔をしていたからだ。先生と同い年くらいに見えるし、とても仲の良いお友達なのかな。

    「はーい、外遊びはおしまい〜!お片付けしたら並んで手洗いしましょうね」
    先生たちの声にシュルシュルとジャングルジムを降りると乾先生が入り口に向かうのが見えた。とっさに手洗い場の列に並ぶ振りをしてユリちゃんの手を引く。
    「ね、先生あの人の所行くのかな」
    「行ってみる?」
    「うん」
    まだ遊んでいる子に混じって園の入り口近くまで行くと見つからないようにしゃがんで様子を見る事にした。乾先生は背中を向けているから顔は見えないけど話し声は少し聞こえる。

    「蓮二、どうしたの?」
    「忘れ物だ。今日は弁当の日だろう」
    「あ、テーブルに置きっぱなしにしてたか、ありがとう蓮二」
    「ちょうど近くで仕事があったからついでだ。それに今朝の寝坊は俺にも責任があるからな」
    「も、もう……そういう事言うなよ!」
    「ほら貞治、早く行かないと園児が待ってるぞ」
    スっと目が合って、ドキリとした。つられてこっちを見た乾先生はいつもの笑顔になる。
    「お、ミオちゃんとユリちゃんはきちんと手を洗ったのかな〜」
    「きゃー」
    先生に追いかけられて二人とも慌てて手洗い場に走った。
    やっぱりあの男の人と話してる時の乾先生はなにか違う。兄弟みたいな、でもそうじゃない。これは女のカンと言うやつだ。
    「レンジ、さんって言うんだね。乾先生と全然違うのになんだか……似てたね」
    手洗いしながらユリちゃんがポツリと言った。
    レンジさんの声は初めて聞いたけど少し冷たくて、でもよく響く優しい声だった。先生とは全然違うけど心地いいと感じる。
    「レンジさんは乾先生の特別なのかな」
    乾先生を見るレンジさんも、レンジさんと話す乾先生も私の周りにあるものとは違う気がしていた。おばあちゃんと見るドラマの中にあるような、特別なもの。ユリちゃんも難しい顔してうーん、と首をひねっていたから同じくモヤモヤしているようだった。


    その後も乾先生はいつもと変わらず、お歌のじかんに楽しく歌って数字あそびで夢中になっているうちレンジさんの事はすっかり忘れてしまった。思い出したのはお弁当のじかんになってからだ。ちょうど乾先生が私たちのグループに来る番でさっきチラッと見えた包みが目の前に現れたらあのシュッと線を引いたような涼しげな顔が浮かんだ。
    「さっきの!」
    隣にいたユリちゃんも同じだったようで大きな声を上げた。そして勢いに乗ったユリちゃんと一緒に続ける。
    「レンジさんって、先生のお友達?」
    「レンジさんは先生の特別?」
    私とユリちゃんが前のめりになって質問攻めにすると同じグループの子たちも先生に注目している。
    乾先生はキョトンとしていたが少し考えるしぐさで目を閉じた。
    「そうだね、仲の良いお友達だよ。ずっと昔から一緒だから特別って言うより、家族みたいな人かな」
    そう言うとふわっと花が咲いたみたいに笑った。もうそれがとびっきりにキラキラしてるからユリちゃんも私もポーッと見とれてしまう。なんだか引っかかるけどその後もレンジさんの話は聞けないまま、お母さんが作ってくれたお弁当の味もよく分からなかった。



    「家族って、おばあちゃんとかお父さんとかお母さんとかお兄ちゃんとか、そうゆうこと?」
    ユリちゃん家で一生懸命切った乾先生の顔と髪を貼り合わせながらつぶやく。何か違う気がするけど、それが何だか分からない。
    「コンヤクシャよりも仲が良いのかな」
    私よりも慣れたようすでスルスルと上手に作るユリちゃんはもうメガネを貼れば完成だ。
    「乾先生はモテモテねぇ、こんなに婚約者が居るなんて。この前パパがボヤいてたわ」
    ケラケラッと笑いながら切れ端が散らばったテーブルをサッと片付けるとユリちゃんママがお菓子のお皿を置いた。
    「パパも好きだけど、乾先生はもっと好きなの!」
    私も隣でブンブンと頷く。お酒飲んで寝転がってお母さんに怒られたりゲームに熱中しすぎておばあちゃんに怒られたりするお父さんとは全然違う。

    「ねぇママ、コンヤクシャと家族ってどっちが仲良し?」
    「ええ?……そんなのケースバイケースよね。じゃあさ、ママと乾先生ならどっちが好き?」
    究極の質問だけど、お母さんとは比べられない。
    「うーん、……ママ」
    「そう言うことよ。ママだって乾先生に負けないくらいユリちゃんが大好きだもの。大好きと大好きが合わさると強いのよ」
    大好きと大好き。レンジさんは乾先生の事どう思ってるのかな。


    私にしてはよく出来たワッペンはユリちゃんママがバッジにしてくれたからお揃いで服に付けてもらった。大好きな笑顔の乾先生を見ていたらモヤモヤがどうでも良くなって、家に着く頃には鼻歌交じりにスキップしていた。
    「ただいまー」
    元気いっぱいドアを開けると、お母さんがいそいそと靴を履いて出かける所だった。
    「あら、ミオおかえり。今からお使い行くけどミオも行く?」
    「行く!」
    お使いについて行くとお菓子を一個買ってもらえるのだ。何を買ってもらうか今からラインナップを考える。
    「隣町のスーパーだから車で行くわよ。おばあちゃんがドラマで見た物が食べたいって、本場のスパイスが多い店ってあそこしかないのよね」
    隣町のスーパーかぁ、あそこなら近くではあまり見ない外国のお菓子も良いな。可愛い缶に入っているものを少しずつ集めている。
    スーパーの大きなカートを押しながらもお菓子を選びたくてウズウズしてしまう。
    「ねー、お菓子見たい」
    「まって、先に買わなきゃいけない物からね」
    そう言ってお野菜がたくさん並んでる所で止まってしまった。退屈だけどガマンしないとお菓子は買ってもらえない。じっと棚に書かれたカタカナを読みながら終わるのを待っていると、聞き馴染みのある声が聞こえた。
    「やっぱりここはフレッシュハーブがたくさんあって良いな」
    ふと横を見ると大きな人影。
    「乾先生!」
    いつものエプロンじゃなくて黒のシャツがすごく、すごく似合っててカッコいい。こんな所で偶然会うなんて、これは運命と言っても良いんじゃないかしら。
    「おお、ミオちゃん。こんばんは。ミオちゃんもお買い物きたんだね」
    うん、私ね、先生のワッペン作ったの!と言おうとした時、かがんだ乾先生の後ろから朝見たスーツ姿が現れた。
    「あ、……あ、」
    驚きのあまり言葉にならずパクパクと口だけが動く。キョトンとした顔で私の様子を見ていた先生がふと目を止める。
    「あ、ミオちゃんもワッペン作ってくれたの?よく出来てるね。すごく頑張ったね」
    一番ほめて欲しい人に頭を撫でてもらって嬉しいのに乾、乾先生の笑った顔はキラキラしてるのに、後ろの存在が気になって仕方がない。
    レンジさんはじっと私を見ていた。乾先生とは違うけどそれは優しい目をしていたと思う。何だか聞きたいことが聞けるような気がした。
    「レンジさん!」
    私に話しかけられるとは思ってなかったのか少しだけ意外そうに眉を上げた。
    「ん、どうした?」
    軽く背をかがめて言葉の続きを待つ。
    「レンジさんは、乾先生の事好き?」
    「え?わ、ちょっと……」
    なぜか乾先生が間に入って止めようとしたけど、私はこの機会を逃したらもう聞けないと思った。
    「もちろん、好きだよ」
    「お母さんよりも?」
    一瞬間が空いて、これまで見たことないような柔らかい笑顔になった。
    「ああ、誰よりも大好きなんだ」
    それを聞いて、ずっと取れなかったモヤモヤがすーっと消えていく感じがした。
    「もう、蓮二っ」
    「彼女は真剣に聞いていたんだから真面目に答えなければ失礼だろう」
    その二人の空気がすごくあたたかくて幸せそうに見える。大好きと大好きが合わさってるってこういう事なんだな、とひとり納得してしまった。

    「ミオー、あまり離れないで……あら、乾先生!」
    ここからお母さんの長話しをさらに待ってやっとお菓子のコーナーにたどり着く。缶はウサギの絵が描いてある物にした。



    私には大好きな人がいる。今日も園の入り口で大きな背をかがめてキラキラの笑顔を見せてくれた。

    「ミオちゃん、おはよう」
    「乾先生、おはようございます。私ね、コンヤクをカイショーしようと思うの。乾先生は大好きだけど、私よりふさわしい人がいるって気付いちゃったの」
    おばあちゃんが見てるドラマのセリフだ。イイ女はキレイに負けを認めるらしい。
    先生は少し驚いた顔をしてたけど、すぐニッコリ笑って頭を撫でてくれた。
    「ミオちゃん。今まで婚約者にしてくれてありがとうね。これからも先生と一緒におうた歌ったりかけっこしたりしてくれる?」
    「うん!」
    初めて先生のツンツンした黒髪をポンポンと撫でてみる。思ったよりも手触りが良くていい匂いがした。
    大好きな乾先生、これからもよろしくね。
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