数々の試練を乗り越えた王子様が伝説の教会でお姫様と愛を誓い合う。
学生の頃に憧れていた噂話は、時が流れるにつれてセピア色に色褪せていった。
王子様もお姫様も所詮はお伽噺の世界の絵空事。
誰かのお姫様になりたいと願っていた十代の私をあの教会へと置き去りにして、時は移ろい続けてゆく。
◆
無数のビルの間から降り注ぐ陽の光が睡眠不足の身体に刺さり、私は思わず目を眇めた。
連日の残業で疲弊した心身はこんな爽やかな朝陽でさえ鬱陶しく思えてしまう。
本日は朝から会議に出席して、それが終わればクライアントとの顔合わせ。午後からは職場に山積みにされた仕事を片付けなければ。きっと今夜も夜更けに帰宅するハメになるんだろう。
考えただけで辟易した気分が押し寄せて、私は深く溜め息を溢しながら寄せては返す通勤ラッシュの人波に紛れた。
15592