あつい「ほら、ちゃんと飲んどけよ」なんて年上ぶってメンバーに飲み物を配って、さっさと飲み干してしまったニキに自分の分まで分け与えて、これはまずいかも、ということに気付いたのは炎天下のロケの後半戦だった。目の前がピンク色で、まるでずっとベッドの上を歩いているみたいに足元がふわふわする。それでも俺って結構すごくて、ちゃんと受け答えもできてるし笑ったり進行したりもできている、と、思う。ちょっとだけ自信ないけど。
「揚げたてメンチですって! 僕食べたいっす!」
「ええなあ、美味しそう」
こはくちゃんが俺の袖を引っ張って、「ほら」と促す。それに「おう」と応じようとして、後ろから襟首を掴まれた。
「ぐえ」
「ストップ、ごめんなさい、一回カメラを止めてください」
HiMERUだ。どうしたんだ、何かあったのか。尋ねるよりも先に、「天城」と両頬を包まれて顔を覗き込まれた。
「え」
「少し休んでください。飲み物を買ってきてもらいますから」
「え?」
ぎょっとした。瞬きをすれば、視界に色が戻ってくる。暑い。喉が渇いた。
「顔もなんとなく赤いし、足取りも怪しい」
HiMERUの手だって、汗をかいて熱い。けれど、俺の顔よりは随分ましだった。足元がふらつく。ちょっと辛くてHiMERUに体重をかければ、しっかりと支えてくれた。助かる。
「さっき、ちゃんと水分補給しませんでしたね? 椎名にやってしまったのは、天城のものでしたか?」
詰問するような口調。怒ってンのかなァ。視界の隅でニキが俺を振り返る、ニキは悪くないよ。大丈夫、大丈夫。
スタッフさんがばたばたしている。俺の調子が良くないの、バレちまったみたい。ADさんに指示を出したディレクターさんが、こちらへ駆けてくる。
「燐音くん、平気?」
それにHiMERUが完璧な笑顔を向けた。
「すみません、少し休めば大丈夫だと思います。30分ください」
おかしいなァ、俺、ちゃんとできてたと思うんだけど。俺のことをカメラ越しに見ていたディレクターさんも何も言わなかったし、こはくちゃんだって、ニキだって、まあ食べ歩きロケだったっていうのもあるんだろうけど、普段通りにしてたし。
「……よく分かったなァ」
凭れ掛かる。重いだろ、悪いな。でもちょっと、ふらふらするんだわ。メイクさんが俺たちに日傘を差しながら、「日陰行こ」と言ってくれた。体重をほとんどHiMERUに預けながら、やっと日陰に座り込む。商店街の喫茶店が軒先を貸してくれたらしい。ああ、迷惑かけちまった。
かわいいウエイトレスさんが、冷たいおしぼりを出してくれる。気持ちいい。溜め息を吐いて汗を拭う俺の隣で、同様に溜め息を吐いたHiMERUがひたと俺を見据えた。
「天城が思うより、HiMERUは貴方のことを見ています」
確かに、お前は観察眼がひとより優れているものな。すげェな。痩せた肩に頭を預ける。暑いな。でも日差しが遮られた分、かなりいい。
「えェ、なんで? 俺っちのこと好きだから?」
からかうつもりでそう言えば、HiMERUはむっと唇を尖らせて俺を睨んだ。珍しい表情だった。
「そうだ、と言えばもう少し自分のことを省みてくれますか?」
「……え、」
どういう意味だろう。やべ、頭が回んない。言うべき言葉が見付けられなくて、じっと見つめ合ってしまう。綺麗な瞳だな。蜂蜜みたいな色。
見つめ合う俺たちの間に、ずいとスポーツドリンクのペットボトルが差し込まれる。
「燐音はん、お水、これ飲んで」
「ごめんね、僕が飲んじゃったの燐音くんのだったんすね? ああ、確かに、体調不良のにおい!」
焦った顔のこはくちゃんと、心配そうなニキ。汗だくの俺のにおいをふんふんと嗅ぎまわるニキを払いのけていたら、30分の休憩なんてあっという間だった。