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    tooi94

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    241222 ごはん モブ視点あり

    糠、鍋、焼菓子、蕃茄、居酒屋ドちゃん「ロナルドくんが糠床を殺した。許さない」

    そう言ってドラルクが事務所を出て行った。
    売り言葉に買い言葉だった。
    出ていけばいいと確かに言った。せいせいするとも言い捨てた。ジョンは置いてけと言ったのに連れて出て行ったのだから、こっちこそ絶対許さねえとすら思った。
    それをロナルドが悔いたのは、買ってきた牛丼の供となる漬物が冷蔵庫から消えた時だった。
    情けない話だが失って初めて知った。
    いかにあの糠床が大事だったのかーーあの小皿の小さな彩りが生活を豊かにしていたのかを。


    その糠床は、ドラルクが近所のおばあちゃんから分けてもらったものを数年かけて、時に事務所メンバーの好みに合わせ、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら育ててきたものである。
    ドラルクはこの糠床を大事にしていた。愛していると言って過言でもない。
    しかしどうしても糠床を事務所に残して出かけなくてはならない日というものは来る。

    ドラルクは出立のその日、ロナルドに出張などの長期での不在がないことを確かめ、危険な仕事がないことを充分に確認し、くれぐれも糠床の手入れを怠らぬようにと請うて出かけた。
    信頼もしていた。
    それはロナルドの食卓に日々あるものであり、ロナルドもそれらを美味しいと称えていた。
    賞賛とは愛である。
    ドラルクはその食卓を愛していた。
    なればロナルドもまたそれらを愛していたはずである。
    ところが彼は糠床の面倒を見ることなく。
    何か理由があったのかと案ずればただ、忘れていただけ、一日見なかったと思っただけ、それが3日続いただけと答える。あまつさえ
    「また買えばいいじゃん」などという。
    とんでもない。
    あの糠床はドラルクが育てたものである。重ねてそれ以前より、近所のおばあちゃんが成熟させ、ドラルクとの信頼関係を経て預けてくれたものがはじまりだ。あの中には定番のきゅうりや大根、にんじんがいた。変わり種としてチーズやゆで卵もいた。
    帰宅後には切って並べさえすればそれだけで間違いなく絶品となる素質を持ったものたちであった。

    それら全てが、死んだ。
    ロナルドの怠慢によって。
    彼はただ「うっかり」「1日くらいいいと」「また作れば」そんな心持ちで、有望なる彼らすべての未来を奪ったのだ。
    許されることではない。

    ドラルクは実家に帰った。栃木だけども。
    しばらくはどうしても新たな糠床を育てる気にはなれなかった。
    それは愛だった。あの事務所の愉快な日常を彩るための。終わりを迎えてしまったのだ。
    ドラルクは日々、糠床と、糠床と供に失われた彼らを思い出しては涙した。
    ロナルドに容易く殺されてしまった可哀想な彼ら。
    愛。
    食卓。
    ドラルクはその喪失を存分に惜しんだ。だってドラルク以外には誰も、おそらくはジョンでさえ、供される側であるが故にドラルクの愛は理解しきれないだろう。
    ドラルクしか彼らを惜しんでやれるものはいないのだ。

    ドラルクを迎えたドラウスは、息子の傷心の理由を詳しくは聞かされてはいない。
    しかしそこにポールくんが関与していることは容易く把握できた。容易い、というよりは必然だった。
    可愛い愛息子の心を容易く動かし踏み荒らすのはあのポールくそ野郎の他にはいないのだ。悔しいことに。
    だからポールから、ドラルクがここへ来ていないかと連絡があった時は知らぬ存ぜぬを通したし、城へ訪れたときも断じて通さぬと立ち塞がった。
    けれどポールはそれをすれ抜け突破し、満身創痍になりながらも、とうとうドラルクが立てこもる部屋へとたどり着いた。
    それはドラウスが舌を巻くほどの執着に相違なく、また戦くほどの愛に違いない。

    「ドラ公」
    冷たく開かざる扉を前に、その奥に潜む吸血鬼に、退治人が請う。
    「戻ってこいよ…戻ってきてくれないか。
    なあ、俺、お前がいない間に、(糠床をくれた)近所のお婆さんに教わりながら自分でも世話して育ててみて…やっぱり全然ダメで、なんとか(食べられる程度には)やってるけど、お前がいた時とは比べもんになんなくて、お前がどれだけあいつ(糠床)…俺ら(の食事)のために考えてくれてたか、思い知った。
    なあ、もう一度俺にチャンスをくれないか。あいつ(糠床)を一緒に育ててくれ」

    あれ? とドラウスは思った。
    前述の通りドラウスは詳しい喧嘩の原意を聞いていないので、()の中身なんかわからない。

    重たげな扉はしかし案外軽い音を立てて、ほんの少しだけ開かれる。そのわずかな隙間から、泣き腫らしたドラルクの赤い目が覗く。
    「ほんとうに…? ほんとうに、一緒に(糠床を)育ててくれる…? ちゃんと毎日構ってくれる…? 今までみたいに、ちょっと私が不在の間だけ構うとかじゃなくて?」
    「当たり前だろ…! いや、そうだ、当たり前だったんだ…今まで悪かった、(俺のメシでもあるのに)お前に任せきりで…違う、お前は俺を信じて(糠床を)任せてくれたのに…殺しちまって…っ」
    「ロナルドくん…もういいなんて私には言えない…でもどうか、最初のあのこ(糠床)のことも忘れないでいてくれないか、私、私にとっても…っ初めて(育てた糠床)だったんだ…!!」
    「ッ、忘れるかよ…!!」
    「ヌー!!」
    斯くして扉は開かれた。ロナルドは二度と閉ざされまいとするように手を伸ばしドラルクの腕を掴む。それはいささか乱暴な所作の要であるのに、ドラルクは死ななかった。
    どちらともなく互いを引き寄せ、ジョンを真ん中に抱き合う。
    ロナルドはドラルクを殺さない力加減で、それはそれは大事そうに。

    しかし。
    ドラウスには()の中身はわからない。
    わからないなりの解釈がどうなるか。

    知らないところで愛息子が退治人と子供作ってて育てた1人目が退治人の不注意で儚くなってて2人目が今育ってるのではないかみたいな感じの話を聞いてしまったパパは、とりあえず親友であるところのノースディンに連絡したし妻に相談しようとして一族ラインに誤爆したから
    新横浜は凍ったしハリケーンがきた。


    ***

    西陽も疾うに消えてなお30度越えのクソ暑い中をロナルドは帰ってきた。
    殴って片の付く相手ではなかった。暴力で対応できないのはしんどい。
    どうしたらうまく対応できたのか。そんなことばかり考えて帰ってきたから脳みそも茹るように疲れていた。

    そんな感じだったので、事務所のドアに本日終了の看板がかかっていても、ロナルドは概ね賛成だ。とはいえ閉めるならそうと連絡くらいよこせよと思ったけど。
    ひとつ息をついてドアを開けて、まずはいつものようにメビヤツにただいまと声をかけて帽子を預けようと、したら、
    メビヤツは「冷やし中華始めました」と書かれたのぼりを背負っていた。
    一瞬固まったロナルドに、ビ? とメビヤツは首を傾げる。ロナルドは改めて「ただいま」と声をかけてから、帽子を渡した。
    こんなことするのは同居鬼しかいまい。
    じゃあ今夜は冷やし中華なのか。
    ロナルドの気分はふわっと浮ついた。
    生活スペースへ続くドアを見れば、そこにも、丼の淵のぐるぐるに縁取られた「冷やし中華はじめました」の貼り紙がされている。
    ドラルクに掴まれた胃袋がぐうぐう鳴った。
    「おかえりそしてへいらっしゃいシャチョーさん! 冷やし中華はじめましたわよ!」
    「お、今日そう言う設定…いや中華屋とお嬢様混ざってね?」
    「当店、お席にご案内するにはまず規定のドレスコードをクリアしていただきます」
    「冷やし中華のドレスコード」
    「まずはボーイに上着をお渡しください」
    「オヌヌヌリシヌヌ!」
    いつのまにかロナルドの足元にはかわいいボーイさんがいらっしゃっていた。
    「え〜、ジョンが預かってくれるの? ありがとう〜すげえ高級店じゃん」
    ロナルドの気持ちはめちゃくちゃ浮ついた。ジョンに上着を預けて、そのジョンを抱き上げる。
    「それではボーイの誘導に従ってお進みください」
    かわいいボーイさんに案内され、ロナルドは上着をハンガーにかけ、仕込んでいた武器を片付けた。
    そこから次に案内されるのは浴室で、バスタブにはミントの香りのするお湯が張られていた。お風呂はかわいいボーイさんに背中を流してもらうサービス付きである。
    風呂上がりに髪を乾かさずリビングへ戻ろうとしたロナルドだが、当然そこはかわいい上に優秀なボーイさんにメッてされた。
    ドライヤーの音に紛れて、今日は中華屋さんらしいキッチンの方から、じゅわ、と言う油の音が聞こえる。
    店主はドラルクなので、供されるのは冷やし中華だけではないのだろう。それがなんであれ、きっとなんでも美味いのだ。
    へらりと、ロナルドの口元が笑む形になるのを、ボーイさんは嬉しそうに眺めた。

    「へいシャチョーさん! ごめんなさいね、今日は冷やし中華始まったけど終わっちゃってェ、代わりに特別メニューの鍋焼きうどんになります!」
    「いやなんっでだよ、俺とジョンしか来ねえだろこの店!」
    「いい茄子とエビが入ってね、うちのコも食べたけど美味しいよ!」
    冷房の効いた室内とは言え熱くもなるだろう、死にもせず汗だくになりながら店主であるところのドラルクが言う。
    ロナルドに抱えられたお店のコ、ジョンもヌンヌン頷くので、味は間違いないのだろう。
    それにしたって鍋焼きうどんだ。
    キッチンを覗き込むと、ぐつぐつ煮立てられる土鍋のほかにも、きゅうりと茹でた鶏肉にソースがかかったやつや、鍋焼きに入り切らなかったらしい茄子の煮浸しやらが小鉢に盛り付けられている。
    ぐう、とロナルドとジョンのお腹が鳴った。
    「お席でいい子にお待ちくださいな」
    うふふとドラルクが笑う。ともすれば鬱陶しい湯気の中、ふわふわと出汁のいい匂いがする。

    言われた通りテーブルに着くと、ジョンがおしぼりを持ってきてくれた。冷たいやつだ。ロナルドはもうだいぶ嬉しい。
    「シャチョーさん、ビールにする? ピンドン? リシャール?」
    「どのタイミングでぼったくりになったんだよ」
    すぐに缶のままのよく冷えたビールと小さい小鉢のゴーヤの白和え、さっき見た茄子の煮浸しが並んだ。
    麦茶も出されたので、まずこれを飲む。ジョンが自分用の小さなグラスで乾杯に付き合ってくれた。
    「若造、鍋焼きできたから取りに来て持てない」
    「おい客に手伝わせんな最後まで設定保たせろ」
    「伸びるぞ」
    「冷めるまで待とうとすんな」
    ドラルクからミトンを受け取って鍋を持ち上げる。ロナルドが持っても少々重い、中身が詰まった鍋だ。いい茄子とエビが、とドちゃんは言っていたが、多分ほかにも色々な具材が入っているのだろう。セロリと吸血野菜以外なら必ず美味しい。
    自分の席の前に土鍋を置いて、ついでにジョンのお裾分け用に小さなお椀を出す。
    「ボーイは晩御飯食べたからちょっとだけにしてくださいね」
    棒棒鶏の皿をテーブルに置きながら、ドラルクが言う。
    ロナルドは「おう」と心にもないお返事をして、ぷし、といい音を立ててビールを開けた。
    ドラルクが向かいの席に座る。
    「いただきます」
    「どうぞ、召し上がれ」

    ロナルドは凹んで帰ってきたし、メニューは裏切りの鍋焼きうどんだったけれどもボーイさんはかわいいしデザートは手作りのバナナアイスだったし、
    向かいに座るドラルクは楽しそうに笑うので、
    その日はいい一日だったなと思って眠れるのだ。


    ***

    深夜。
    ロナルドは執筆中であるが、もう全く全然集中なんかしてなかった。
    気がつけば短針は時計のてっぺんを通り過ぎて久しい。嘘だ。秋は夜長とか言うんだから今はまだ昨日のはずだ。絶対そうだ。よしまだ大丈夫。昨日のうちなら余裕だ。
    などと現実逃避をしてヌイッターを眺めるなどしていると、ふんわり、隣からつまり事務所奥の生活スペースから、やわらかな甘い香りが漂ってきた。
    おやつだろうか。
    少し浮つく気分を宥めながら、手元の珈琲がなくなったのでおかわりを淹れにいく、と言う建前で、ロナルドは椅子から立ち上がった。

    ロナルド覗き込んだ先で、しかしドラルクはエプロンを外してダイニングの椅子に座っていた。
    あれ、と思うロナルドにすぐに気付いたらしい。
    楽しげな顔で、小さく手招かれた。
    ロナルドはなんとなく、息を潜めて音を立てずに、彼の傍に向かう。
    そこからドラルクの視線を辿ってキッチンを見れば、
    クッキーまだかなもうすぐかなヌッヌーヌヌヌヌと歌いながらほっぺたをくっつけるようにしてオーブンの窓を覗き込んでるジョンとヒナイチがいた。
    子供みてえなことしてんな、と、さっきまでおやつにうわついていた自分を棚に上げてロナルドは思った。
    「かわいいよねえ、子供みたいだ」
    と、ほとんど同じことをドラルクが言う。
    けれどそれは慈愛としか言えないような柔らかさで、
    微笑むドラルクの方がかわいいなどと思ってしまったロくんは壁に頭を打ちつけた。
    子供達はビビリ散らして歌をやめたし、ドラルクは死んだし、
    ロナルドは翌日オータムに連行された。


    ***

    それはきっとパトロールの合間だったのだろう。
    深夜に近い時間の公園でお弁当広げるロナルド様を見かけ、声をかけてしまう彼女は、どこにでもよくいるロナルド様のファンの女の子だ。
    ちらりと、しかししっかりと確認したお弁当箱には、唐揚げに卵焼き、茄子と赤ピーマンの炒め物にタコさんウインナー、仕切りにレタスとプチトマトの絵に描いたような品揃えだ。
    これくらいなら私にもできるなどと甘いことを考えながら、それでも会話のネタとして彼女はお弁当をほめることにする。
    でも、ロナルド様のところに住み着く忌々しい吸血鬼が作っただろう、唐揚げや卵焼きやらをほめると撃沈する例をいくも知っているので、彼女はトマトを指して、
    美味しそうなトマトですね、ロナルドさんの色みたいに鮮やかで、と言った。
    ところがロナルドは、すん、と眼の光を消して、ただ口元だけ薄く笑う顔をした。
    もしかしてトマト嫌いなのだろうか。
    そんな話はどこにもなかったけれど好都合だと彼女は思った。私なら貴方の好きなものを用意してあげられる。だから今度ぜひ作らせて、
    よしその方向へ持っていこうと彼女が口を開いたところで
    「美味いですよ、自家製なんで、出がけに採ったばかりだから」と、ロナルドが言った。
    あの吸血鬼のおっさん、家庭菜園までやってんのついに材料から用意しやがってオノレ、と心の中で彼女は喚き散らした。
    ロナルドは気づかずあるいは構わず、真っ赤なプチトマトを摘んで口を開けて、舌に乗せる。唇を閉じて中で転がすように弄ぶ仕草をして、ぷち、と砕く小さな音。咀嚼する横顔さえかっこいい。
    彼女はほうと溜息をつく。
    「ドラ公を殺すと、砂になるんですけど」
    けれど夢見心地でいられた時間は僅かだ。
    ロナルド様を狙う彼女には全く煩わしい吸血鬼の名前が出てきて、しかし続く単語が不穏なものだったので、彼女は続く言葉を待った。
    愚痴と不満が続けばいい、そうしたらそんな我慢しなくていいんですよ聞くところから始めてやろう。最後には追い出す妄想まで進める。
    ロナルドは彼女を気にせず続ける。
    「その砂に苗を植えるんです。もちろん、砂だけだと育たなさそうでしょう?
    でも意外に根を刺した途端に元気になって、こんな感じですぐに赤くなって。
    で、赤くなったところを一つずつ採って、根を外してやって、それで漸くあいつは復活するんです」
    公園の乏しい電灯の下、ロナルドはお弁当箱の中のプチトマトをつついて転がしながら言う。
    「起きたあいつが何か文句言う前に夜食はこいつでなんか作れよって渡して、そしたらあいつ、驚いたみたいなおかしな顔して、それが割と若く見えて」
    ロナルドはプチトマトを摘み上げて口元へ持っていく。その口角は確かに笑む形だ。
    「さっき、こいつのこと、俺の色って言ってくれましたよね。ありがとうございます」
    形の良い白い歯に挟まれてトマトはぷちりと潰れた。


    ***

    いつものようにメビヤツに帽子を預け、いつものようにロナルドはただいま、と言うと、
    「おかえりーそしていらっしゃいませ!」
    と威勢の良さげな声が返ってきた。
    見るとリビングのカウンタのところに居酒屋ドちゃんの暖簾とメニューの短冊が貼ってある。
    しかし、威勢よくいらっしゃいを言った本人は、
    「すみませんねえお客さん、当店仕事終わりの退治人服ではお席ご案内できないんです」
    などと言う。

    「居酒屋のくせにドレスコード出してきやがった」
    「お客さん、玄関で泥を落として靴と外套をお取りください」
    「へいへい」
    「テーブルの上に武器を置いてください」
    「注文の多いレストラン?」
    「食べられてくれるの?」
    「食わせてほしい」
    「…居酒屋閉店してからね」
    言質だ。やったー。

    お風呂に入ってさっぱりしてから居酒屋ドちゃんの席に着く。
    髪をきちんと乾かすところまでドレスコードに入ってるので、今日はちゃんと自分で乾かした。
    テーブルにはおしぼりと、小鉢が2つ、お通しはとりささみのポン酢和えとひじきの煮物だ。ロナルドは貼り出されてるメニューを眺める。

    「えっと、とりあえずビール? 麦茶?」
    「あはは、なんで疑問系? 缶開けて泡がブワーってなるのあるよ」
    「じゃあそれ、って俺が買ってきたやつじゃん」
    「今日のおすすめはね、タコの唐揚げとヤングコーンのバター醤油炒め、ビールならマヨ七味?」
    「全部とあとこの豚の油揚げ包み焼きカリカリで」

    居酒屋ドちゃんのメニューは、メニュー名だけなら肉系ばかりだが、全部に問答無用で野菜がついてくる。
    ロは皿の上のそれらを、お給仕の看板マジロに三分の一ほど持っていかれながら全部綺麗に食べる。
    「うめえ」
    「それはそう」
    「もう仕事終わりにこの店ないと生きていけない胃袋支配されちゃう、さてはお前、名のある吸血鬼だな」
    「バカなこと言ってるー、もっとちょうだい気持ちいい」
    「シメに鮭とチーズのおかかおむすびください」
    「あおさのお味噌汁あるよ」
    「いる」
    ドはけらけら笑いながらおむすびを用意し始めた。具は2種類あるようだ。
    「ジョンの賄いが枝豆としらすとチーズなんだけど、お客さんもいかがです?」
    「いただきます、なあ大将」
    「大将」
    「それ作ったららこっちにいらして一緒に飲みませんこと?」
    「あらまあ、じゃあご相伴に与りますわね」
    「女将でしたわ」

    開けると泡がブワーってなるビールを空けてちょっとふわふわしながら、カウンター越しのドラルクを眺める。
    細い指先には大きなおにぎりに、大葉と海苔を丁寧に巻いていく。
    盛り付けを考えている顔は楽しそうだ。

    「酔っ払ってる?」と、楽しそうな顔のままドラルクは首を傾げてきた。
    「ちょっと。なんで」
    「にこにこしてて気持ち悪い」
    「飯作ってる時にそういうこと言うなよ殺せない」
    「殺すなよ」

    おにぎりがふたつのった皿と、味噌汁がロナルドの前に置かれた。
    ドラルクは向かいに座る。彼の前には味噌汁の横で作っていたのだろう、ホットミルクの入ったマグカップ。それがなくなるのはロナルドがシメのごはんを平らげるより少し後だろう。
    ジョンは真ん中、あるいはドラルクの隣が定位置で、彼用の小さな皿と椀が並ぶ。
    意外に薄めの味付けのおにぎりと味噌汁を少しだけゆっくり噛んで、ロナルドは小さく息を吸った。

    今日の仕事は少し疲れた。久々の県外の、ただの駆除依頼だったけれど、依頼人がとにかく人ではないものを嫌う人だったので、合間のちょっとした雑談も聞いていてひどくしんどかった気がする。

    「俺、お前と結婚してよかった」
    思わず口をついて出たそれに、ドが目を丸くする。
    それから笑う。
    そういうのを、いちいち素直にかわいいと、嬉しいと認められるようになったのは結婚してからだった。

    さてその日居酒屋ドちゃんは閉店なので、ロナルドはお皿洗いの後、ドちゃんをいただきますするのだ。
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