糠、鍋、焼菓子、蕃茄、居酒屋ドちゃん「ロナルドくんが糠床を殺した。許さない」
そう言ってドラルクが事務所を出て行った。
売り言葉に買い言葉だった。
出ていけばいいと確かに言った。せいせいするとも言い捨てた。ジョンは置いてけと言ったのに連れて出て行ったのだから、こっちこそ絶対許さねえとすら思った。
それをロナルドが悔いたのは、買ってきた牛丼の供となる漬物が冷蔵庫から消えた時だった。
情けない話だが失って初めて知った。
いかにあの糠床が大事だったのかーーあの小皿の小さな彩りが生活を豊かにしていたのかを。
その糠床は、ドラルクが近所のおばあちゃんから分けてもらったものを数年かけて、時に事務所メンバーの好みに合わせ、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら育ててきたものである。
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