ひどい男イッキはひどい男だ
隣に座るとついイッキの指を見つめてしまう。
武骨な手に指先はギタータコ、なのに指の動きがとても繊細で目が惹かれちゃう。
今もこうしてキャンディ包紙の両端を掴んで、流れるように中身を取り出して口の中に放り込む。おまけに指先もひと舐めする。
イッキにはそのつもりがないと思うけど、オレにはすごく艶っぽく見える。その指を舐めてみたいな、としようも無いことを考えちゃう。
「どうしちゃったの?あ、もしかしてレンも食べたい?」
無言で見つめているオレに誤解しているらしい。視線はオレに移したからいいけど。
「そうだね、ひとつもらおうかな。」
「やっばり気になる?これつい最近発売されて人気なんだよね。何味がいい?」
袋から違う味のをいくつ出して、ヨーグルトおいしいよね、でもやはりオレンジか、ソーダで舌が青色になるのも見たいかも…と勝手に一人で盛り上がっている。
「イッキのおすすめがいい。」
「じゃやはりベタにオレンジ味!ほら食べてみて!」
イッキの手のひらに転がっているキャンディを見て食べさせてくれないかなと考えているうちに、イッキが包紙の中からキャンディを摘んでオレの口元に持ってきた。
「今日のレンは甘えん坊さんかな。ほら食べさせてあげる。」
口元のキャンディと口角が上がっているイッキを見比べ、オレは大人しく口を開けた。
「へへ、かわいい。あー。」
目を伏せてキャンディだけではなくイッキの指も一緒に舐めた。口の中に広がるオレンジの香りは甘ったるい。なんて言ってくれるかと思うとドキドキで心臓がうるさい。
しばらく待っても何も言ってくれないイッキに目をあけて上目遣いで見た。
「もう、レンってばよくばりなんだね。」
ニカっと笑ってオレが先程舐めた指を舐めるイッキに、オレは曖昧な笑みを返すしかできなかった。
オレの恋心が分かっているくせに。
何も言ってくれないイッキって本当にひどい男だ。
付き合っていない音レンと片思いのレンと応えるつもりが無い音也。