【タル蛍】逃げたい彼女と、逃がす気のない俺と。 久々の手合わせでいつもよりも昂っていた。それは少なからず影響していたかもしれない。
彼女は少しふらふらとしながら水の入った杯を手に取ると一気に呷った。しかし勢い余ったのか口の端から零れてしまい、慌てて杯を口から離すと困ったように口元を拭う。それでも拭いきれなかった水はそのまま首を流れていった。
いつもなら「何してんの相棒」なんて笑っていたかもしれないのに。そんな姿から視線を逸らせずふらふらと吸い寄せられるように近付くと、彼女は不思議そうにこちらを見る。
「俺にもちょうだい?」
「え? うん、どうぞ」
そう言って差し出された杯には目もくれず、彼女の手首を掴んで首を伝った水に舌を這わせる。
手首を掴んだのは、無意識にでも彼女の抵抗を防ごうと思ったからだろう。当然驚いた彼女は慌てて身を引こうとする。けれどその抵抗は掴んだ手が拒んだ。彼女の手から杯が落ちて足元に水が散る。
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