second virgin4(上) 今年も俺は新年を、四天宝寺中テニス部の皆と近場の神社で迎えた。皆いうても千歳や銀らはおらんかったけど。中高生が夜中に堂々と出歩けるのって最高やなって言い合いながら。拝殿で去年の一年間への感謝と、今年もどうかお願いしますって願いを込めて神様に祈った。
修二さんとの初詣は、スポーツの神様を祀っとる神社に行くことになっとった。さすがに夜中に遠出は出来ひんから、もちろん昼間に行くんやけど。年が明けたことによって、修二さんと出会ったのももう一昨年の話になってまうんやなって思うと、不思議な感じがした。
最初はあんまり関わりの無い、ただの先輩の一人やったのにな。色々あって付き合うてもらえて、付き合ってからも色々あったけど今は順調やと思う。せやけどあんまり頻繁には会えへんから会える時にはかっこええ所を見せて、もっと俺のこと好きになってもらわなあかんなって思うわ。
当日俺は親に買ってもろた新しい服で、気合いを入れて待ち合わせ場所の駅へと向かった。少し待っとったら時間通りに修二さんが現れたんやけど、コートの下にスーツ着とるみたいで。あかん、気合いでも負けてしもたわって思った。
「明けましておめでとうございます。スーツですかそれ」
「かっこええやろ」
修二さんはコートのボタンを外すと、下に着とるスーツをチラッと見せてくれた。モノが良さそうなスーツで、修二さんによお似合っとった。
「ほんまかっこええです。すいません俺、普通の格好で」
「ええて。うちは正月はみんな着物着るんやけど、面倒やからスーツ着とるだけやし」
「へぇ、京都の人ってそうなんですか」
「そんなん家によるやろ」
俺がジロジロと覗き込んだからか、修二さんはコートの前を大きく開けてスーツ見せてくれたんやけど。直ぐに寒なってまったのか、「また、脱ぐ時な」って言うてコートのボタンを留めた。うーん、言い方がいちいちエロいわ。
もう少し見とりたかったんやけどなって思っとったら表情に出とったのか、修二さんが機嫌よさそうに聞いてきた。
「そないスーツ好きやった?」
「スーツも好きですけど、制服っぽくてええなって思て」
正確に言うと修二さんが通っとった舞子坂高校の制服は緑系やから、今修二さんが着とるスーツと色合いとかは全然ちゃうんやけど。学ランよりかはブレザーとスーツって雰囲気似とるわ。
「制服デートって、憧れあるんで」
もし俺達が二人共高校生で、修二さんと学校帰りにデートしたらこんな感じやったんかなって。
「何でそれ、俺が高校卒業する前に言わんかったん」
「や、もう卒業しとったやないですか」
俺達が付き合い始めたのは去年のホワイトデーで。修二さんは勿論、俺の中学校の卒業式すら終わっとった。
「3月中やったらセーフやん」
「でも、わざわざ着てもらうのも悪いですし」
当時の俺には、もう卒業しとるのに制服着るのおかしいやんって気持ちしかなかった。それに俺は制服デートに憧れあるけど、当然修二さんは制服デートくらいしたことあるやろうし。なんならもう制服処分しとったかもしれへんし。わがまま言うたらあかんかなって、その時は思ったんやけど。
せやけどこの先一生、修二さんと制服デートする機会ないんやなって思うと、やっぱりお願いしておけばよかったやろかって気持ちもあって。ほんまに何でしておかんかったんやろ。
そもそもW杯の時やって空港でスーツ着とったのに、あの時ももっと見ておけばよかったわ。何で修二さんの魅力にもっと早く気付かんかったんやろって思ったけど。そもそも修二さんは船やから、空港にはおらんかったわ。
その後俺達は神社まで歩いて、混雑の中参拝を済ませた。俺が祈り終わってもまだ修二さんは祈っとって。意外と信心深い人なんやなって思て、俺も慌てて追加で修二さんのことも祈っておいた。その後に修二さんおみくじで大吉引いとって、嬉しそうにしとって良かったわ。俺は吉やったけど。
ほんで駅に戻りながら途中お茶でもって思ったんやけど、開いとる店はどこも混んどった。
「これからどうします?」
「んー。ノスケの家、行ってもええ?」
「ええですよ。連絡しときます」
俺が携帯を取り出して家族にメッセージを送っとると、横から修二さんが覗き込んできた。
「家族おる? 家でやるのとかは、あかん?」
「家で? ラブホ行けばええやないですか」
「正月はなぁ……」
「あかんのですか?」
「混むから」
「あー……」
やっぱりそういうことには詳しいんやなって、俺は微妙な気持ちになったんやけど。今日は姉ちゃんも友香里も友達と出掛けとるし、部屋でいっぱいエロいことしてこのもやもやを晴らしたろって思った。考えてもしゃーないことを考えてもしゃーないからな。
ほんで家行くんやったら手土産買うてこかってなって、俺達は駅直結のデパートへ向かったんやけど。デパートは死ぬほど混んどった。
「こない並ぶんやったら、ラブホで並んでも同じやないですか」
「分かってへんなー。全然ちゃうわ」
「何がちゃうんですか?」
「分からん? ジェネレーションギャップやなぁ」
何がジェネレーションギャップや適当なこと言うて。子供扱いやめてほしいわって修二さんのコートの裾引っ張ったら、修二さんが笑って言うた。
「女の子をラブホで待たせる男も、女の子の買い物に付き合えへん男もモテへんで」
ほんまに意味分からんわ。女の子ちゃうし。俺は人混みの中で飛び出とる白い髪の頭を、見失う心配がないのだけは安心やなって思いながら眺めた。
家に帰ると修二さんは、なんやかんやで色々と買うた手土産を、新年の挨拶と共に親に渡した。うちの親も慌てて用意したらしいお年玉を、修二さんに渡しとった。
ほんで親はこれから町内会の詰め所の当番があるらしくて─要は宴会してくるだけなんやけど、夕方まで帰らんからって留守番を頼まれた。よっしゃ、新年早々ついとるわ。
「冷蔵庫にお節あるから、よかったら食べてってや」って言われて。そないお節は好きやないんやけど、少しだけつまんでから俺の部屋へと向かった。
「お年玉もらってしもたわ。手土産持ってきてほんま良かったわ」
「いくら入ってました?」
「品の無いやっちゃな。……一万円やわ」
「えっ、俺より多いですやん」
修二さんの持っとる小さなポチ袋には、普段はあまり見ることのない種類のお札が入っとった。
「ノスケはいくらやったん?」
「6千円」
「えらい半端な額やな」
「16才やから6千円なんですって。修二さん19やから9千円やないとおかしいのに。千円多いですやん」
「俺に言われても知らんわ」
「修二さん、愛想ええから得やわ」
「関係あらへんって。21才でも一万円やろ」
修二さんは財布を取り出すと、ポチ袋のままのお年玉をお札入れの方に仕舞った。お札入れの中には既に、今見たのと同じ種類のお札が入っとった。
「いつまでお年玉もらうつもりなんですか」
「そら、もらえる限りいつまでもやな☆」
修二さんはペロリと舌を出すと、我が物顔で俺の部屋のドアを開けた。そういう仕草を見とると、ほんまに一生お年玉をもらってそうな人やなって思った。