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    kk_69848

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    蔵種
    グッズを見て書きました

    プレゼント交換ここはU-17W杯、日本代表宿泊棟。帰国を前にして、少し早いクリスマス会が行われている最中だ。ホテル側が用意してくれた大きなクリスマスツリーの根元には、沢山のプレゼントが置かれている。
    「なぁなぁ、あのプレゼントって、誰が用意したん? さんたくろーす?」
    「みんなでプレゼント交換するて言うたやろ? 金ちゃん、用意してへんの?」
    「えー、聞いてへんわ」
    「ちょお、言うたって」
    プレゼントを前に白石と遠山が揉めていると、後ろから跡部が声を掛けた。
    「あーん? そんな事もあろうかと、俺様が多めに用意しておいたぜ」
    「さっすが王様やな」
    「助かるわぁ、跡部クン」
    跡部景吾─。その実力とカリスマ性から、白石が中学1年生の頃から知っていた人物だ。東京という遠方に住んでいる為、会える機会は限られていたが。合宿を経てこのW杯で同じチームとして戦い、随分と親しくなった気がする。
    跡部だけではない、他の中学生も。そして─
    「ひゅー、宝の山やなぁ。ノスケはどれにするん?」
    「えっ、あ、種ヶ島先輩」
    ちょうど白石の頭の中を占めていた人物に声を掛けられて、白石は内心跳び上がった。平静を保とうとすればするほど、体温が上がって背中に汗が浮かぶ。
    「えーっと、どれにしよ」
    「あれとか跡部のやろ、ブランドもんの箱やん。争奪戦やな☆」
    「あ……、はは。そうですね」
    今日のプレゼント交換を提案したのは、種ヶ島だと聞いている。事前にクリスマスツリーの根元に、各自がこっそりプレゼントを置き、パーティーの終わりに一つずつ持ち帰る。誰のプレゼントが当たるか分からない、サプライズが好きそうなこの男らしいアイデアだ。
    「でもきっと、キミ様のもええプレゼントですよ」
    「どうやろ? サンサンは捻くれとるからなぁ」
    「おやおや、私の事を呼びましたか?」
    「わー、待って待って。サンサンはかっこええなぁって言うとったんやって」
    種ヶ島は君島の肩を抱くと、そのまま高校生の輪の中に入っていった。
    種ヶ島と君島─。このW杯で、白石が世話になった先輩達だ。公式戦、非公式戦との違いはあれど、二人とも白石とダブルスを組んでくれた。しかし白石の自惚れでなければ、特に種ヶ島は白石に目を掛けてくれていた。そしてそんな種ヶ島に、白石は特別な感情を抱いていた。
    「……」
    白石が選んだプレゼントは、植物図鑑だ。このW杯の会場の近くにある、有名な植物園の植物を撮影した、写真集に近い本だ。一緒に植物園に行くことを断られてしまった種ヶ島に(君島にも断られたのだが)、写真だけでも見てもらえればと選んだ一冊だ。種ヶ島が手に取ってくれるよう、包装紙の上から、種ヶ島が好きだという水色のリボンも結んだ。しかし。
    どうやら種ヶ島は、跡部の高価なプレゼントが目当てのようだ。それでなくてもこの沢山のプレゼントの中から、自分のプレゼントが選ばれる確率は果てしなく低いだろう。
    白石は、自分のした事が急に恥ずかしくなった。いっそ、自分で自分のプレゼントを持ち帰ってしまおうか。白石が手を伸ばそうとすると、ふいに後ろから声を掛けられた。
    「白石さーん。白石さんはプレゼント何にしました?」
    他校の後輩である、切原赤也だ。
    「ちょお、秘密って話やろ。……ここだけの話やけど、本やで」
    「あっ、一緒だ。俺もエロ本にしたんすよ」
    「はぁ? エロ…て、18才未満やろ?」
    「なんかオーストラリアには、15才以上なら買えるエロ本があるらしくって」
    「切原クン14やろ?」
    「俺は見てないっすよ、……少ししか。買うのは種ヶ島先輩に頼んで。持ち帰るのも大体みんな15才以上だし、大丈夫っしょ」
    「金ちゃんとかに当たったら、どないしてくれるん」
    「そこは白石さんが上手くやってくださいよー」
    切原は屈託なく笑ったが、白石の顔はより曇っただけだった。種ヶ島は、切原ともダブルスを組んでいた。特別に親しくなったと思っていたのは、やはり自分だけなのかもしれない。
    そうこうするうちに、プレゼント交換の時間になってしまった。あぁ、早くプレゼントを回収しなければ。
    「やべっ、俺のプレゼント、真田副部長が持ってる! 白石さん、止めてくださいよ」
    「え、俺知らんて」
    「むっ、何だこの本は! けしからん」
    「赤也のプレゼントの確率、98パーセント」
    「俺じゃないっすよー」
    切原らは、大騒ぎしながら会場から出て行った。やれやれである。さぁ、今度こそプレゼントを回収─と思ったが、白石のプレゼントはどこにも見当たらなかった。
    「あれ?」
    既に誰かが手にしてしまったのだろうか。白石が会場中を見回すと、見覚えのある水色のリボンが視界に入った。真っ白な包装紙に、水色のリボン。そしてそれを持つ褐色の手。
    「あ……」
    あの人が、自分のプレゼントを持っている。あの人が、水色のリボンをほどいている。世界の全てがスローモーションに感じながら、白石はそれを見詰めた。
    「おい修二、跡部のプレゼントじゃなくていいのか?」
    「これでええの。お、写真集や。綺麗やなぁ」
    気が付くと白石は、全速力で走って自室に帰っていた。バクバクと高鳴る心臓の音を感じながら、倒れるようにベッドに突っ伏す。
    あの人が、選んでくれた。綺麗だと言ってくれた。同時に見ることは叶わなかった景色だが、同じ感情を抱いてくれた。それがまるで奇跡のように、白石には感じられた。
    「あかん……、信じられへん」
    混乱する頭の中を一つ一つ整理しながら、ふと目をやると、ベッドサイドに一つの箱がある。とっさに慌てて持ち帰った、自分の分のプレゼントだ。直方体のベージュの包みに、白石の好きな若草色のリボンが巻かれている。
    (誰からのやろ。お礼、言わなあかんな)
    箱を開けると、中にはいかにも海外らしいデザインの、派手なオウムのぬいぐるみが入っていた。小さなメッセージカードも添えてある。
    『修二さんと1日デートできる券☆』
    カードにはそう書かれていた。
    「え……」
    白石の混乱は収まるどころかより一層深まり、その晩白石は、一睡も出来なかった。
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