「えれすてあるれむ???」──バレンタイン当日。
「ジョーン♡チョコいっぱい貰ったから食べようぜ〜!」
「ヌ〜ン!ヌッヌヌッヌ!」
両手がチョコいっぱいの袋で塞がって帰ってきたロナルド。
ジョンは早速、貰ったチョコに食らいつく。
エプロン姿で夜食の準備をしていたドラルクがその姿を見てギョッとする。
「うっわ何だその量は…それ全部君宛てか…?」
「あぁ、毎年オータム書店から俺宛にってファンからのチョコいっぱい貰うんだよ。食いきれない時はサテツにやるけどな。」
「ふ〜ん。で、そのお返しはするのかい?」
「オータム主催で握手とサイン会兼ねたバレンタインお返し企画は3月にやってる」
「へぇ〜……」
「ヌッ…」
2人の会話を耳にしながら、何かをご主人から察した賢いジョンさん。
小さなお口にいっぱいチョコが付いている。
「…なんだよ、お返しにチョコくらい返せって?俺がそういうのセンス無くて無理なの分かってんだろ。つか、ファンが欲しいのは俺なんかのサインと、握手くらいだろ。」
ロナルドはドラルクなど見向きもせずに沢山のチョコから適当に選んだ箱を開け、沈黙するドラルクに勝手に返事をする。
「そうだな…そのホワイトデーのお返しとやら、この私が直々に作ってやってもいいぞ?あ、でも『ドラルク様お願いですぅ〜センス皆無な僕の代わりに大切なファン達へ最高のチョコを作って下さい〜土下座でも何でも致しますぅ〜』って言ってくれたr」
スナァ……
あくまで予測可能な、流れるような鉄拳に砂と化す。
「 バカ野郎、勝手にしろ」
「言ったな?ならばそうさせてもらうぞ…。」
「あ?何?怒ってんのか?お前に食えそうなチョコはコレくらいしかねぇけど…」
ロナルドはすかさず大量のチョコの中に一緒に贈られた酒瓶も入っていた気がして、それくらいならドラ公も飲めるだろ、とガサゴソと袋を鳴らしながら探しだす。
しかし、それを止めるように食い気味にドラルクは返事をした。
「いらないよ。…私、やる事あるから席外すね。そうだ、ジョンにチョコ食べさせ過ぎないように。あと、鈍感ルド君に忠告しとくが、手作りっぽいものとか、1回開けてそうな既製品は絶対に食べない方がいいぞ。…何入ってるか分からんからな。」
エプロンを外してダイニングを後にし、事務所側への扉を開けて出ていったドラルクはちょっと不機嫌そうだった。
大量のチョコを貰っている姿が羨ましいのか、はたまたファンに対して警戒心の無いロナルドに苛立っているのか。
ドラルクが出ていく後ろ姿を呆気にとられてただ見ていたロナルド。
「…あいつなに拗ねてんだよ。自分がチョコ貰えないからってそんな嫉妬するか?ヌーチューブのファンからスパチャ…?とか貰ってんじゃん。なぁ?ジョン〜♡」
って言いながらそれ以上なんも考えず、箱に添えられた名前を見ても誰からのチョコなのかも分かりもしない、可愛いデザインの箱から取り出したハート型チョコをパキッと噛じる。
「ヌヌェ……」
何がとは言わないが、色んな意味でチョコより甘ぇと思う180歳超えのジョンさんだった。
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時は過ぎ…!
ついにホワイトデー企画から、あと数日と迫った!
パティシエ・ドラルクはそれはそれは頑張った…!
自身の日々のルーティンの合間に色々と構想を重ねた『ホワイトデー♥ドラドラチョコレート』!
若造のオフの日、その真の姿なんぞ知らぬ大勢のファン達の為にクオリティ均一で大量生産!!!
見た目は既製品過ぎず、手作り感強めでもなく、絶妙なビジュアルバランス(?)で作られたチョコレート!!!
勿論、味は絶品!!!
…しかし、さすがに生産性に限度があるため、事前にフクマさんから企画参加者人数を聞いておいた。
「もうこれ売ったら結構儲かるんじゃないの?!私って本当に天才!さすがドラドラちゃん!さすドラちゃん!!!」
数名存在する勘違いガチ恋ファン達を黙らせるため、自身の料理の腕とセンスを全力で注ぎ込んだ…!!!
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──ホワイトデー当日。
オータム企画の『ロナ戦ファンミーティングinホワイトデー』は一通り終了し、ファンも会場を離れた後、一段落着いたところでフクマさんは言った。
「ロナルドさんドラルクさん、本日はお疲れ様でした。ドラルクさんのチョコもとても大盛況でしたね。私も頂きましたがとても美味しかったですよ。宜しければ、また来年も作って下さい。きっとロナ戦ファンの方々も既に来年を期待しているはずですから。」
フクマさんはニッコリ笑って2人を労う。
企画が予想以上に盛り上がって満足そうだ。
ドラルクは褒められてご満悦そうに、
「いやぁ〜!フクマさんにも喜んで頂けて私も嬉しい限りですな!このパッケージも素敵な製作所をご紹介頂いて大変助かりましたし…こちらこそ、来年もぜひよろしくお願い致します。」
ニカッとよそ行き顔で笑う。
ロナルドもバトルアックスが振るわれず企画が終了し安心しながら、
「握手の時、皆が口揃えて『チョコが美味しいからぜひこの店を教えて欲しい』って聞いてきてよ。正直にお前が作ったって言ったら目ん玉でかくして全員ビックリしてたぞ。」
珍しくロナルドは遠回しに且つ無意識にドラルクを褒めると、フクマさんも続けてドラルクを褒める。
「チョコのお味は勿論のこと、箱も袋も素敵でした。箱の内側に箔押しの印字までこだわっていらして、さすがドラルクさんです。」
褒められるの大好きドラドラちゃん、嬉しすぎてエッヘンと顎が上がる上がる…。
「ああいうのはこだわってしまうタチでしてな、誰かさんの代わりに頑張った甲斐がありました、ははははは!」
「お前が勝手にやるっつったんだろ!頼んでねぇよ!」
嫌味ったらしいドラルクはまたロナルドに殴り殺され、会場から出たゴミと共に捨てられそうになりながら何とか生還。
企画は大盛況のうちに幕が下りた。
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フクマさんに次の原稿の進捗を聞かれてビビりながら別れ、会場を後に2人と1匹が帰路につく。
「にしてもこれ本当に店で売ってそうだな。金箔のとこも筆記体で洒落たデザインしててよ。…ところで、これなんて読むんだ?…え〜れ……す、すて…??」
何だかんだで余ったチョコをヒナイチ用にと一つだけ持ってきたので、頑張って蓋の内側のロゴを読もうと唸りながら眉間に皺を寄せてるロナルド。
そんな彼をじっと見つめるドラルク。
「………ま!馬鹿ルド君には一生分からんだろうけど、絶っっっっっ対に教えてあげませ〜〜〜〜〜ん!!!ゲハハハ!!!ピッピロピ〜〜〜!!!」
長い舌を馬鹿にしたように揺らしながらゲラゲラとロナルドを馬鹿にして笑う。
ブチ切れて脊髄反射でドラルクを殺したロナルドはムカつくからという理由で結局調べないので、彼には文字の意味は一生分からないけれど、事務所に着いたらロナルド専用に作られた『ドラドラ特製チョコレート♥』がきちんと用意されている事を後に知る。
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──ホワイトデー企画よりも前の2月下旬。
「──もしもし、お世話になってますドラルクです。どうもどうも。早速ですが、先日注文した箱のデザインの事でして…。はい、では黒をベースに内側は深い紫で。深紅の留め紐に金の飾りをつけて下さると有難いです。えぇ、…はい。そして、箱を開けると文字が見えるように、上の箱の内側に金箔で『El este al meu』と、馬鹿には読めないようなカッコいいお洒落な筆記体で印字してください。あ、これルーマニア語です。はい、そうです。それで合ってます。すみませんねぇ、とある“馬鹿”には読めると困るんですよ〜!」
我ながら大人気ないなと思いながらも、邪悪な顔でニタァと笑った。
完-ヌン-