タバコ「増えたよね、タバコ。」

コンビニから出た後、なんとなく放った一言。
最近、気づいたらいなくなってる事が多くて、帰ってきたらほんのり苦い香りがするから、そういう事なんだと思ってた。前からタバコを吸ってるのは知ってたけど、こんなに高頻度ではなかった記憶はある。
詳しくはないけど、九蓮くんがやっていることは知ってるし、近頃ずっと負けてるのかなとかも考えた。他人の嗜好に口を出すのはどうかなと思う、でもそれ以上に九蓮くんの体の方が心配だし、ぽつりと呟いてみた。
九蓮くんは片手に収まる箱を見て、少し考えるように静止している。

「よく見てますね、確かに今日2箱目だったや。」
「うん、でも、タバコを買う回数よりも、喫煙所に行く回数の方が気になったからさ。」
「あ〜…なるほどね〜…在斗さん、俺がタバコ吸うの嫌？」
「ううん、嫌じゃないよ。でも、一緒にいれる時間が減っちゃって、寂しいなぁって。」

そう言うと、九蓮くんが目を少しだけ見開いた。
でも、本当の事だよ。タバコの匂いよりも、体を蝕む煙よりも、九蓮くんと一緒にいれる時間の方が大事で好きだから。普段はドラマの現場が多いから、素のまんまでころころと変わる九蓮くんの表情は見ていて楽しい。

「またそうやって恥ずかしいこと言う…」
「本心だよ。ね、吸っていかないの？」

そう言って、灰皿を指差した。その上には、既に誰かの残骸が捨てられている。

「吸うならさ、一本頂戴？」
「え？」

また、九蓮くんが驚いたような顔をする。
そんなに意外だっただろうか。これでも一応、吸ったことあるんだけどなぁ。役作りで一回だけ、どんな感じなのかなと思って買ったことがある。身体に悪いってよく言うから、すぐに止めてしまったけど。

「な…なんで？」
「うーん、吸ってみたかったから…？それにほら、吸うようになったら一緒に喫煙所に入れるしさ。」
「ええ〜？」

九蓮くんが満更でもなさそうに少し表情を緩めた。
それを見て、嬉しくなった。君が、僕の隣にいることを嫌がっていないという証明だと思ったから。
僕は君を許容した。借金のことも、アイドルらしからぬことをしているのも含めて。なんでだと思う？なんて意地悪なことを聞いたら、また表情を変えて、今度は怒られてしまうかな。
だってさ、君は僕の片割れだから。全てを受け入れる理由なんて、それだけで十分だ。僕を僕と信じ、隣にいてくれる人。
それにさ、寿命を削ってでも二人で一緒にいるなんて、なんだかロマンチックじゃない？とか言おうと思ったけど、流石に怒られちゃいそうだからやめた。
九蓮くんが、ゆっくりと口を開く。

「…だ、め。肺が真っ黒になっちゃうよ。」

君の真白いその心を染められるなら、それでもいいよ。