無題何故こんな状況に至ってしまったのか。
自分をメサイアから連れ出した青年を組み敷いたまま考える。
”夢のたったひとり”
”最高のコーディネイター”
そう称した人間はなんと傲慢なことだろうか。
呆然自失のまま、あの場所で死ぬものだと思った自分を強引に連れ出してしまったのだから。
怒りなのか何かも自分自身でも名前を付けられない感情のままに、引き倒して組み敷いてしまったのだったか。
だが、そんな状況でもその彼は頼りなくも優しげな表情は崩さない。
「きみも、明日が欲しかったんでしょう?」
ぽつりと掛けられた一言に、ようやく平素の落ち着きを取り戻そうとしていた心がまた波打つのを感じる。
「俺は…あの場所で死ぬはずだった!!」
ギルを撃ってしまった事実を抱えたまま生きてゆく事など出来るわけが無い。
どちらにせよ、そう遠くはないうちに尽きてしまう命だ。崩れゆくメサイアと運命を共にするものだと引金を引いた時に悟ったつもりだった。
議長室での一連がフラッシュバックし、また目の奥が熱くなるのを感じてふいと顔を逸らす。
そんな自分の頬にそっと手を伸ばした彼が言う。
「いいんだよ、泣いても。」
ギルのものとも、ラウのものとも違う、でも優しい手をレイの温かな涙が濡らした。