さよなら可愛いイルカちゃんソーはあんなだから彼目当てに来るお客さんもたくさんいる。
ソーを見てキャッキャッしてる人間のメスが、イルカロキちゃんは大嫌いなので、わざと多めに水飛沫をかけてやる。お客さんは仕方ないって笑ってるけど、ソーはそれが態とだってわかるのであとでロキちゃんを叱るんだけど、ロキちゃんはそっぽ向く。
水槽の近くで女の子から連絡先渡されてたり、デートの約束したりしたあとは、ロキちゃんはソーに寄ってこないし練習もしてくれなくなる。ソーは「ロキィ～」って情けない声出しながらロキちゃんの後を追いかけ回すんだけど尾びれで水ぶっかけられてしまう。


イルカロキちゃんはソーが大好きだから求愛行動とるんだけどソーは当然応えてはくれない。だからロキちゃんは強引にでもえっちに持ち込もうとソーのウェットスーツを脱がせようとするんだけど、ソーに「やめろやめろ」って怒られてしまう。しょんぼりしてたロキちゃん。
そんな彼に、古株のシャチが「人間は周りに見られながらの交尾はしない。誰も居ないように見えても、ここは監視装置があるから無理だろうな」と教えてくれる。
そしてロキちゃんはある一大決心をする。
ソーが当直で一人水族館に残る日、ロキは皆が帰宅した頃を見計らってソーを呼び、海に面した屋外プールまでの扉を開けるよう強請る。ソーはロキの願いを聞いてくれた。ロキは勢いよくプールへ入る。そして助走を付けると特大ジャンプをして、プールの縁を飛び越え、海に出てしまった。
ソーは慌ててロキを呼ぶが、ロキは戻って来ない。海の中でソーが来るのを静かに待っている。やむを得ずソーがロキを追いかけて海に出ると、ロキは早速求愛行動を取る。そしてソーのウェットスーツをやんわり引っ張った。


そして、やっぱりソーは応えてはくれなかった。


ロキは「やっぱりな」という気持ちと「どうして」という悲しみで胸が張り裂けそうになりながら、それでも、もうソーを困らせてはいけないと判断して自ら元の水槽に戻る。それきりロキはソーに求愛行動はとらなくなった。だが、言うことは聞くし指示通りに動くが、ソーからのご褒美の餌は受け取らない。
お客さんに水飛沫をかけなくなったが、かつてのようにソーに水飛沫をかけて悪戯したりもしない。ぎこちなくなっていくソーとロキ。しかもロキは日を追う事にどんどん衰弱していく。見かねたオーナーがロキを引退させること、ソーには新しいパートナーのイルカを用意することを告げるが、ソーはなんとか待って貰えないかオーナーに頭を下げる。何度目かのオーナーとの衝突が終わり、憔悴した様子のソーがやってくる。それを見てロキは、ついに心を決める。
あの日のようにロキは海に面したプールの扉を開けるようソーにせがむ。
遠くの方でシャチが「何をしたってお前の想いは届かない。人間は応えない。新しいイルカが来たら忘れられるさ」なんて意地悪なことを言っていたがそんなのはどうでもよかった。ロキは最後の力を振り絞ってプールを泳ぎ助走を付けて海に飛び出した。
ソーは静かに後を着いてきてロキに手を伸ばすと、ロキの鼻先に唇を落としてきた。それがどういう意味の行動なのかはイルカのロキにはよく分からなかった。よく分からなかったが、その瞬間、確かにロキの心は満ち足りていた。だからロキは、伸びてきたソーの腕をひょいと避けると、沖の方を目指して物凄いスピードで泳ぎ出した。後ろでソーがロキの名前を呼ぶ声がしたがロキはもう振り返らなかった。最後に彼は、毎日欠かすことなくソーと練習した特大ジャンプをして見せると、そのまま、泳いで泳いで、深い海の底へ沈んだのだった。


END