頭文字 海へ行こうね、とか言う思い切った約束をしたのはいつだったかな。いや、忘れもしない、五月、テスト前の放課後。
机をくっつけることすらせず、ただ、微妙な六十センチばかりの距離を保って座っていた。本当は勉強なんて家でやれば良いんだけれど、そんなこと言ったら、この時間はおしまいだった。まだ未熟な関係性には、二人で居たい以上の最もな理由が必要だった。何か代入して掛け算すればいいってとんでもないけど、解法だけはあともうちょっと、集中すれば思い浮かぶところまで来ている。簡単でもなければ特段難しい訳でもない数学のワークの上で、シャープペンシルをぐるぐる回す。隣の君が若干朝よりだれたネクタイを垂らしながら真剣な眼差しで問題を見つめているから、話しかける訳にもいかなくて、またペンを一回転させた。
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